昼は平凡な会社員、夜は危険な暗殺者。二面性を持つ謎の男が銃をぶっ放し、美女を抱き、真っ赤なスーパーカーを走らせる。優作のアクションが、脳裏に蘇える。
刺すような毒気がなけりゃ
角川春樹(以下角川):アクション映画の傑作を作りたい—その一心で『蘇える金狼』を制作してから43年が経ちますが、これを超える日本映画は出てきていないのではないでしょうか。公開時は10億円を超える大ヒットになり、'14年には4K版のブルーレイも発売されました。

大槻ケンヂ(以下大槻):当時、私は中学生でしたが『蘇える金狼』が公開された時の興奮は忘れられません。もともと松田優作さんの「遊戯シリーズ」にハマっていて、優作さんは次世代のスターであり、“兄貴”のような存在でした。その優作さんのアクションが、あの角川映画で見られると聞き、期待で胸を膨らませたものです。
速水健朗(以下速水):僕は公開当時まだ6歳で、後からこの作品を見た世代です。中学生の時に再放送されたドラマ『探偵物語』が、優作さんとの出会いでした。
大藪春彦作品のファンだったこともあり、『蘇える金狼』は何度も見返しています。レイバンのサングラスや襟の大きいシャツといった、'70年代の空気にも魅了されました。また、冒頭に出てきた西新宿のビル群や、横浜中華街のレストランなど、ロケ地巡りもするほど好きな映画です。
大槻:'70年代後半は、角川映画ブーム真っ盛りでしたね。『白昼の死角』のキャッチフレーズ「狼は生きろ、豚は死ね」も流行りましたが、『蘇える金狼』の「気をつけろよ、刺すような毒気がなけりゃ、男稼業もおしまいさ」にも痺れました。
角川:CMでも流れた主題歌の「動く標的 狙いをつけて」という歌詞の通り、この映画の最大の売りは銃を使ったアクションです。
日本には、ちゃんとした形で拳銃が使われている映画がなかった。銃はただ殺すための道具で、刀のような美学はないと思われていたのです。しかし私は、ハリウッドの『フレンチ・コネクション』や『タクシードライバー』のように、拳銃が確かな魅力を備えている映画を作りたいと感じていた。