クレムリンでの一幕
冒頭から一句――。
兵(つわもの)もやがて哀しき冬日かな
旧ソ連の独裁者、ヨシフ・スターリン書記長(1878年~1953年)研究の現在の第一人者、オレーク・V・フレヴニューク・モスクワ大学歴史学部教授は、2015年に602ページもある『スターリン 独裁者の新たなる伝記』(邦訳は白水社、2021年)を上梓した。
この興味深い大著は、1953年2月28日土曜日の晩、スターリン書記長が寂しさを紛らわすため、4人の忠臣をクレムリンに呼びつけたシーンから始まる。ゲオルギー・マレンコフ、ラブレンチ・ベーリャ、ニキータ・フルシチョフ、ニコライ・ブルガーニンの各氏で、いわゆる「忠臣4人組」と言われた。
「4人組」は、スターリン書記長の趣味である映画を鑑賞するため、映写室に移動。前方中央の席に座るスターリン書記長を囲むように座り、独裁者を慰めようと、明け方までともに過ごし、盛り立てたのだった。スターリン書記長が急死したのは、「4人組」がクレムリンを後にした4日後のことだった。
それから69年経った2022年2月14日、「現代の独裁者」ウラジーミル・プーチン大統領は、やはりクレムリンに、2人の忠臣を個別に呼んだ。セルゲイ・ラブロフ外相と、セルゲイ・ショイグ国防相である。

まずラブロフ外相が、プーチン大統領に目下の緊張が続くロシアとウクライナの情勢について説明した。
プーチン大統領:「セルゲイ、ロシアが懸念する重要な問題について、欧米側と合意するチャンスはあるのか? それとも欧米側は終わりのない協議に引きずり込もうとしているだけなのか?」
ラブロフ外相:「今週も外交日程が予定されていますし、まだ可能性は残されていると思います。現時点では協議を継続し、活発化させることを提案したい。アメリカやNATO(北大西洋条約機構)からの回答に対する返答として、10ページに及ぶ草案の準備が整っています」
続いて、ショイグ国防相が現れた。
プーチン大統領:「軍事演習の状況はどうだ?」
ショイグ国防相:「各地で行っていますが、完了するものもあれば続いているものもあります。すべては、事前の計画に基づいて進められているものです」
この芝居がかったやりとりは、ロシア国営テレビを通じて報じられ、さらにその模様を世界中が報じた。