世界各国が目標を掲げ、一気に加速化する脱炭素社会に向けた動き。そんな今だからこそ、環境問題をきちんと理解することが大切。地球で今起こっていることと私たち人間の責任について、基本を学びます。

お話を伺ったのは……
江守正多 えもり・せいた
1970年神奈川県生まれ。東京大学教養学部卒業。同大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。1997年より国立環境研究所に勤務。専門は地球温暖化の将来予測とリスク論。IPCC第5次、第6次評価報告書の主執筆者でもある。

気候変動で何が起きているの?

直近10年間の世界の平均気温は、産業革命前(1850~1900年)の世界平均気温より1.09℃高くなった。

この1.09℃という数字に「それだけか」と安心する人もいるかもしれない。だが、これはあくまで平均。シベリアでは2020年、北極圏の観測史上最高気温(暫定)となる38℃を観測。日本の夏とほぼ変わらない気温だ。2021年には長期間にわたる高温で干ばつが深刻化。乾燥により森林火災が助長されるなど自然災害も起こっている。こうした高温状態が続くと、永久凍土が溶け続けて土中のメタンガスが放出され、さらに温暖化を加速させる恐れもあるのだ。

地球上の多様な気候は、水や大気が循環することで生まれている。気温が上昇するということは、その絶妙なバランスが壊れてしまうということ。

そして、自然災害の後には水不足や農作物の不作、飢餓が襲ってくることも忘れてはならない。気候変動により故郷を追われる「気候難民」は、世界で増加しており、オーストラリアの国際シンクタンク・経済平和研究所は「2050年までに、少なくとも12億人が居住地を追われる可能性がある」と指摘。国連はすでに「気候変動による難民申請は妥当」として、支援の必要性を示している。

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豪雨

2020.7 CHINA
中国・長江流域での断続的大雨で約2万9000戸が損壊、220万人が避難

温暖化で海水の温度が上がると、水蒸気が増え、それが豪雨を引き起こしている。2021年夏は豪雨により中国・河南省の地下鉄で浸水や鉄砲水が発生。オーストラリア・ニューサウスウェールズ州でも豪雨で約1万8000人が避難した。日本でも2020年7月の豪雨では、長野県や高知県の期間中の総降水量が、多いところで2000mmを超えた。IPCCは、世界の陸域における平均降水量は1950年以降増加している可能性が高く、1980年代以降その増加率が加速していると発表。また、集中的に強い大雨が降る傾向にあり、日本では大雨の頻度は増えているが、年間降水日は減少している。

強い台風

2021.8 U.S.A.
ハリケーン「アイダ」により米国・ルイジアナ州で100万世帯が停電

台風は海上に発生した熱帯低気圧が発達したもの。発生地域によってハリケーンやサイクロンとも呼ばれる。問題視されているのは、台風の「増加」ではなく「勢力が強まっている」こと。熱帯低気圧は、水蒸気が上昇して水に変わるときに生じる熱を燃料とするので、温暖化で海上の水蒸気が増えると、その分エネルギー源が増えて強力な台風になる。2019年に日本に上陸した台風19号では、住家の全壊が約3000棟、床上浸水が約8000棟におよんだ(2020年4月10日現在)。台風の進路に関わる偏西風も、温暖化によって将来的に今より北上する可能性が考えられている。

熱波

2021.8 ITALY
イタリア・シチリア島でヨーロッパ観測史上最高の48.8℃を記録

熱波とは、その地域の平均気温より著しく高温な空気が一帯を覆う現象。広域で何日間も続くのが特徴だ。ヨーロッパでは、2003年の記録的な熱波(推計7万人が死亡)以来、ほぼ毎年観測されており、発生頻度も上がっている。2021年夏はアメリカ・オレゴン州でも47.2℃を記録。これは同地で1890年代に観測を始めて以降の最高気温となった。欧州以外ではインドやパキスタンでも熱波の被害が。都市部ではコンクリートや高層ビルによるヒートアイランド現象も相まって気温が上昇。また熱波による乾燥は森林火災を助長する原因ともなり、世界各地で熱波と森林火災が同時発生している。

海面上昇

2006-2018 WORLD AVERAGE
2006~2018年の世界平均海面水位は1年あたり平均3.7mm上昇

IPCCは、2100年までに世界の海面水位の平均は、1995~2014年の平均と比較して、温室効果ガスの排出が非常に少なくても28~55cm、温室効果ガスの排出が非常に多いと63~101cm上昇すると予測している。大きな要因は海水の膨張。地球温暖化による熱の90%以上は海に溜められ、水温上昇によって膨張した海水が、海面上昇を引き起こしている。また、南極やグリーンランドの氷床、高地の氷河などが溶け出していることも要因だ。影響を受けるのは海抜の低い島国。日本も他人事ではなく、海面が1m上昇すると、全国の砂浜の9割が失われる。

干ばつ

2021 MADAGASCAR
南米・マダガスカルで4年連続の干ばつ、114万人が深刻な飢餓に

干ばつが深刻化しているのはアフリカや中東、インド、中国北東部やアメリカ中西部など。地球上には降水量の多い地域と少ない地域があるが、温暖化でその差が広がっている。2019年には世界三大瀑布のひとつ、アフリカのビクトリアの滝が干上がった。2021年、マダガスカルでは4年連続の干ばつで114万人が食料不足に。国連WFPは紛争ではなく気候変動による飢餓は、世界初の可能性があると指摘。IPCCは、乾燥化地域における農業及び生態学的干ばつは、1850~1900年に10年に1回の頻度で起きた規模のものが、現在は10年に1.7回の頻度となり、強度も増していると発表している。

森林火災

2021.8 RUSSIA
シベリアで森林火災が深刻化。煙が北極圏に到達

熱波や干ばつは、深刻な森林火災を引き起こす一因となっている。火災のきっかけは焚き火やタバコなど人為的要因が多いが、長期間にわたって燃え広がり、なかなか消火できない原因の多くが「乾燥」にもある。乾燥した落ち葉が擦れ合うことで摩擦によって火が起こるケースも。2021年夏に発生したシベリア地方の森林火災は、10月末の時点で日本の国土の半分に値する約1800万haを焼き、煙は北極圏に到達した。森林火災は人の生活を脅かし、動植物の命を奪うだけでなく、CO₂を大量に排出することと、CO₂を吸収する森林を失うことの両方で温暖化を加速させている。