1枚の葉っぱの上に広がる優しく温かな物語が、老若男女を問わず、さらに言葉の壁も超えて世界各国で感動を呼び、ファンを生んでいるリト@葉っぱ切り絵さんの作品。2022年2月13日の『情熱大陸』でもその作品の細やかさや温かさが大きな評判となりました。

けれど、ここにたどり着くまでには、苦しい紆余曲折があったのだといいます。2021年6月のインタビューでは、「葉っぱ切り絵」に出会うまでのことも率直に語ってくださっていました。そこでインタビューを再編集の上ご紹介します。怒られっぱなしの会社員時代、発達障害という診断を受け、30代にして将来は見えないまま退職。「過集中」「こだわり過ぎる」という自分の「弱み」を「強み」に変えられる場所を探し始めた前編に続き、自分の道を見つけるまでの試行錯誤の日々について語ってもらいます。

撮影/嶋田礼奈
リト@葉っぱ切り絵 1986年生まれ。神奈川県出身。葉っぱ切り絵アーティスト。自身のADHDによる偏った集中力やこだわりを前向きに生かすために、2020 年より独学で制作をスタート。SNSに毎日のように投稿する葉っぱ切り絵が注目を集める。「情熱大陸」(TBS系)、「徹子の部屋」(テレビ朝日)、「あさイチ」(NHK)といったTV番組や新聞など国内メディアで続々と紹介されるほか、米国、英国、イタリア、フランス、ドイツ、ロシア、イラン、タイ、インド、台湾など、世界各国のネットメディアでも、驚きをもって取り上げられる。全国各地での作品展を展開し、販売する作品は即完売する人気。初作品集『いつでも君のそばにいる 小さなちいさな優しい世界』メッセージカードBOOK『離れていても伝えたい』(講談社)が大きな話題を呼んでいる。
Instagram @lito_leafart    
Twitter @lito_leafart  
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アートで食べていくなんてムリ?

アーティストとして生きていこう。そう決意したものの、美術館で鑑賞するのが好きなくらいで、アートの勉強なんてしたことありません。親や親戚には「アートで食べていくなんて、簡単にはできないんだよ」と心配されます。“普通”に4年制大学を出て、会社に就職をして……という人生を歩んでいたので、当然といえば当然です。

けれど僕には、自分の場所、自分の仕事はここにしかない、という確信がありました。“普通”のフリをして生きていくのでも、障害者として配慮を受けながら生きていくのでもなく、自分の「ひとつのことに没頭すると周りが見えなくなる」特性を強みに変えられる場所で生きていくしかない、という思いでした。

そこでまずは、SNSを“就職活動”の場所として、ひたすら投稿をすることに。最初に取り組んだのはボールペンイラストです。と言っても、絵心も絵画の知識もなく、美術の授業やラクガキ以外で絵を描いたのは初めて。けれど僕には、細かい作業をする集中力だけは人一倍ある。衝動に任せて描き進めることは楽しく、好きなことに自由に取り組めることはなんて素晴らしいのだろう! という気持ちでいっぱいでした。

2019年2月、初めて描いてTwitterに投稿したイラスト。緻密な表現は現在の葉っぱ切り絵に通じるものがあるが、この頃はまだSNS上での反応も少なく、しばらく模索が続く。写真提供/リト@葉っぱ切り絵
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「芽なんか出るわけない」と言われながらも、「毎日1粒ずつ種を撒き続ける」という気持ちで投稿を続けました。フォロワーはそれほど増えないままに、半年ほどの試行錯誤からたどり着いたのが、切り絵でした。どんなに細かかったり単調だったりする作業でも、一度始めると何時間も没頭し続けられる自分に、切り絵はいちばん向いている。始めてみてすぐにそれは直感しました。ただ、実際にSNS に投稿してみると、切り絵作品はすでに世の中に無数に溢れていました。しかもみなさん技術が高すぎて、僕の作品は埋もれてしまって、なかなか注目してもらえません。

2019年9月、初挑戦した切り絵。自らの「過集中」「細部へのこだわり」という特性をどれくらい表現に活かせるか、という挑戦だった。写真提供/リト@葉っぱ切り絵

やっと見つけた自分の場所

貯金残高はあと2万円。いよいよ諦めて仕事を探すしかないのか。そう思いながらネットを見ていたとき、スペインのあるアーティストの作品が目に留まりました。切り絵なのですが、素材が紙でなく、葉っぱなのです。葉っぱの真ん中から上半分が森になっていて、そこで動物たちが草を食べている…。まるで葉っぱの中に小さな世界が息づいているような、この不思議な“leaf art”にぼくは一瞬で引き込まれました。

次の日にはさっそく近所の公園で葉っぱ探し。そして、その日のうちになんとか完成させた葉っぱ切り絵作品第1号をSNS に投稿しました。

2020年1月12日、Twitterに投稿した記念すべき葉っぱ切り絵作品第1号。森の中で植物を育てる心優しいロボットの1日を切り取っている。技術的には今よりも拙いけれど、単にモチーフを美しくカットするだけではなく、「1枚の葉っぱの上にストーリーを描く」というオリジナルな表現は当初から変わらない。写真提供/リト@葉っぱ切り絵
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葉っぱ切り絵に、今までにない手応えを感じた僕は「毎日1作品」と決めて投稿を続けました。いちばん熱があるうちに、まずやってみる。才能なんかより、この行動力のほうが何倍も大事なのだと、今になってあらためて思います。そしてさらに思うのです。「才能よりも継続」だと。

葉っぱの切り絵を毎日1作品仕上げているのは、日本でおそらく僕1人。ようやくたった一つだけの自分の居場所を見つけられたのだと思いました。発達障害のお子さんを持つ方から「葉っぱ切り絵に癒されています。前向きになれます」というメッセージをいただいたときは、諦めずにやってきて本当によかったと思いました。