自民党総裁選前には「選択的夫婦別姓」の議論を進めるべきだと積極的な立場を表明していた岸田文雄首相。しかし総選挙前の、10月に行われた党首討論会では政党の中で唯一「選択的夫婦別姓とLGBT法案」に賛成の挙手をしなかったことが大きく報じられた。高市早苗政調会長をはじめ、自民党の中でも選択的夫婦別姓に対して反対の姿勢を貫いている議員の口から常々語られるのが「旧姓の通称使用の拡大」だ。

では実際旧姓の通称使用が拡大され、悩みは解決しているのだろうか。ジャーナリストの浜田敬子さんが2021年12月からスタートした新型コロナワクチンの接種証明アプリを入り口に、様々な実態をお伝えする。

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「旧姓併記だと接種証明アプリが使えない!」

2021年の暮れも押し迫った頃にリリースされた新型コロナウイルス接種証明書アプリ。今後のWithコロナ時代に日常生活や仕事を進めていくために必須となるであろうこのアプリを、早速ダウンロードした女性たちからは次々と悲鳴が上がった。
「マイナンバーカードに旧姓併記しているとアプリが使えない!」

当初デジタル庁はこのアプリで接種証明書の発行ができない人として、「(1)マイナンバーカードに旧姓併記がある人(2)パスポートに旧姓・別姓・別名併記がある人(3)パスポートとマイナンバーの名前が異なる人」と伝えていた。技術的な問題でリリース当初は間に合わなかったとデジタル庁は説明し、その後1月下旬には旧姓併記のマイナンバーカードには対応するようになった

だが、いまだに旧姓併記のパスポートには対応できていない。アプリには国内で使用する日本語版と海外渡航で必要となる英語版があり、海外用はパスポート情報と連動している。現在パスポートには本人が望めば旧姓が併記できるが、ICチップに入っているデータ部分には戸籍名しか記録されない外務省のホームページによると、「戸籍謄本、旧姓が併記された住民票、マイナンバーカードで旧姓が確認できれば旅券への旧姓併記が可能」(戸籍名の後に括弧書きで表記される)だが、「旧姓を含む別名併記はあくまでも例外的かつ便宜的な措置であるため、ICチップには記録されない」とある。海外用のアプリはパスポートのICチップにあるデータを読み取ることが国際規格になっているため、戸籍名しか反映されないのだ。

これまで選択的夫婦別姓制度の導入に反対する自民党の議員連盟「『絆』を紡ぐ会」は、別姓制度を導入しなくても、旧姓を通称使用できる範囲を拡大すれば十分と主張してきた。発起人の1人でもある片山さつき参院議員は私との対談でも、「使用可能な範囲を限りなく拡大したら、実生活上や仕事上の不便はなくなる」と話した。

対談後に浜田さんが執筆した記事も話題を集めた 

だが、この外務省の書き方を見てもわかるように、旧姓を通称として使うための「旧姓併記」はあくまでも「便宜」的な措置なのだ。そのため日本以外の国に対して「旧姓の通称使用」という概念を伝えることは非常に難しい。そもそも「戸籍名と通称として使う旧姓」の2つの名前を使い分けることで、海外で働いていたり、仕事で海外と行き来したりしている女性たちはこれまでも様々なトラブルや面倒に巻き込まれ、苦労してきた。