レナード・バーンスタイン作曲のミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』がスティーヴン・スピルバーグによって映画化された。
このミュージカルは1957年にブロードウェイで初演され、いまもなお日本を含め世界各地で上演されている。
1961年にロバート・ワイズが監督した映画版も大ヒットし、永遠の名作となっており、配信でもDVDでも、簡単に見ることができる。
民族対立と分断が背景に
この物語は、シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』を現代のニューヨークに置き換えたものだと、よく説明されるが、そっくり同じなわけではない。
似ているのは、対立する「家」の男と女が舞踏会で出会い、互いに一目惚れすること、バルコニーにいる女に、その下から男が愛を語るシーンくらいだ。
『ロミオとジュリエット』では先祖代々仲が悪く対立している2つの「家」の男女の悲恋だが、『ウエスト・サイド・ストーリー』は、プエルトリコ系移民と、ポーランド系移民のグループが対立している。
『ロミオとジュリエット』のような家と家ではなく、民族と民族の対立を背景にした若い男女の悲劇だ。60年前のアメリカでは、これが深刻な対立だった。
さらに大きな分断として黒人差別があったが、それはこの作品では描かれない。1957年当時は、黒人差別を題材にすることも、まだできなかった。黒人がブロードウェイの舞台に立つこともできない時代だった。
そして60年が過ぎた。1960年代の公民権運動も「歴史」となり、黒人の大統領も誕生した。
だが、民族と民族の対立は、世界各地に残っている。