池上彰さんが今「自分の頭で考える力」が大事だと話す深い意味

生き方を間違えないガイドブックできました
池上彰さんの新刊『社会に出るあなたに伝えたい なぜ、いま思考力が必要なのか?』(講談社+α新書)の制作をサポートした。内容豊富なこの本、どこを読んでいただいても得てもらえるものが大きいと思う。その中でもここでは、池上さんのジャーナリストとしての矜持を強く感じたところをご紹介したい。取材でお話を聞いたとき、オンラインの画面越しでも鳥肌が立った。私がこの新刊で最も好きなところでもある。「事実を集めて初めて、真実に近づく」という話だ。

「真実は人の数だけある。一つなのは事実」

「ジャーナリストは真実を追求する」などと言いならわされていますが、それは違います。真実なんか見つけられるわけがありません。真実は、神のみぞ知るものなのです。私たち人間は、真実というものは多分あるのだろう、でも知り得ないのだ、と謙虚でなければいけません。私たち人間ができることは、「事実」を集めることだけ。とにかく事実を愚直に集め、事実を構成することによって、「あるかもしれない真実」にどれだけ近づけるか、ということなのです。自分なりに事実を集めることによって、「真実の近似値」を描き出すということです。(終章より)

いま引用した部分を私個人のSNSで紹介したら、おもしろいコメントをもらった。

「『真実は人の数だけある』という言葉を思い出しました」「『真実は一つ』と聞くたびにザワザワします。『一つなのは事実。真実は人それぞれ』と思っているので」

なるほどと頷いた。たしかに今人気のテレビドラマ「ミステリと言う勿れ」で菅田将暉演じる久能整もそう言っている。

 

ある言説を「真実」だと思い込めば、もはや何も自分の頭で考えなくて済む。でもそれで本当にいいのか。だから、あえてザワザワする感覚を持つのはとても大事だと思う。なぜなら、自分で「事実を集める」ことをせずに信じ込んでいた真実が否定されて、いきなりなくなってしまったら、自分の頭の中はどうなってしまうのだろうと思うからだ。

チェーホフの作品に『可愛い女』という短編小説がある(『可愛い女』は旧来から定着している邦題だが、以下の訳語や引用は沼野充義氏の新訳『かわいい』〈『新訳チェーホフ短篇集』所収、集英社刊〉から引用)。夫のことが大好きで、彼の考えがそっくり自分の意見になる女性「オリガちゃん」の半生を描いている。

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