池上彰が語る、スタートレックに学ぶ「前提を否定する」思考法

なぜ、いま思考力が必要なのか(2)
デマや陰謀論になんて自分はだまされない、という自信が揺らいだのが、このコロナの日々。「自分の頭で考える」ことができないと、「他人に考えてもらう」ことになってしまいます。
「思考力」は、よりよい判断のために欠かせない力です。結婚や仕事、家族や職場での悩みなど、人生で出合うものごとのすべてが、正解はひとつではありません。
思考力をどうつければいいか、『社会に出るあなたに伝えたい なぜ、いま思考力が必要なのか?で池上彰氏が初めてアドバイスします。

リーダーの適性検査「コバヤシマル・シナリオ」

問い自体を疑うということに関連して、アメリカで「コバヤシマル・シナリオ」として広く知られているものがあります。アメリカのテレビドラマと映画で長寿シリーズとなっている『スター・トレック』に出てくるエピソードです。

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『スター・トレック』は私も夢中になって見ていました。意外なことに日本的な名前の船が出てきます。アメリカ人にとって、日本の船の名前には「丸」がつくというイメージが強いのでしょうか、宇宙船であっても船名に「丸」とつけてあるんですね。

シリーズ初期の頃、銀河系宇宙の連合軍に対して、クリンゴンという異星人たちの帝国が敵対しています。その連合軍とクリンゴンとのあいだに非武装地帯があり、おたがいにそこは侵さない、もしも侵したら相手から総攻撃を受ける、という条件になっています。

主役のカーク船長は、士官候補生時代に宇宙戦艦の艦長の適性検査として、あるシミュレーションゲームをやることになります。

「コバヤシマル」という民間の貨物宇宙船が動力を失ってしまい、宇宙を漂流し始めて、その非武装地帯の中に入ってしまう。このままでは、コバヤシマルはクリンゴン星人の攻撃を受けて、乗組員が全滅するため、なんとか助けなければいけない。助けに行けるのは、近くにいるエンタープライズ号だけだ、というものです。

当然エンタープライズ号は、コバヤシマルを助けに行かなければいけない。でも行けば、クリンゴン星人の総攻撃を受けて、コバヤシマルもエンタープライズ号も全滅するかもしれない。助けに行かないという選択をすると、エンタープライズ号は無事に帰れるけれど、コバヤシマルは全滅する。どちらのシナリオを選ぶか、候補生たちは判断を迫られる、という訓練を受けるわけです。

 

コバヤシマルを助けて、全員で無事に生還するというシナリオはありません。つまりアメリカ人が「これはコバヤシマル・シナリオだよね」と言うときは、絶体絶命、どっちに行ったっていいことがないというシナリオなのです。

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