その反対に、インフレ率がゼロ近傍にあるときには価格更新をしないことで失う利益はさほど大きくありません。そのため、企業はメニューコストを払ってまで価格を更新しようとはせず、価格更新の頻度が低くなります。
図2では、趨勢的なインフレ率(横軸)と、価格上昇率がゼロ近傍の品目の割合(縦軸)の関係をみています。

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太線の日本をみると、横軸の趨勢的なインフレ率が高いときにはゼロ近傍の品目の割合が低く、インフレ率が低くなるにしたがってゼロ近傍の品目の割合が増えることがわかります。この傾向は他の国も同じです。日本を含む先進各国で価格の硬直性が高まっている一因が、ここにあるのは間違いなさそうです。
しかし、この図をじっくりみつめると、日本と他国で異なる点が見えてきます。ひとつはゼロ近傍の割合が、日本では突出して高いということです。たとえば、横軸の趨勢的なインフレ率が2%のときのゼロ近傍の割合は、日本は25%、他国は12%程度です。趨勢的なインフレ率は揃えてあるので、超過の13%はそれ以外の、日本に特有の要因によると考えざるを得ません。
もうひとつの違いは、趨勢的なインフレ率がマイナス、つまりデフレ局面での様子です。横軸の勢的なインフレ率がマイナスのときに、他国ではマイナス幅が大きくなるほど縦軸のゼロ近傍の割合が小さくなる傾向があります。
つまり、日本以外の国では、プラスの方向にせよマイナスの方向にせよ、超勢的なインフレ率がゼロから離れるとゼロ近傍の割合が低下します(これはメニューコスト仮説と整合的です)。
これに対して日本は、横軸の趨勢的なインフレ率がマイナスになってもゼロ近傍の割合が低くならず、どちらかと言えば上がっていきます。つまり、デフレ下で価格硬直性が高止まるという、他国と異なる現象が起こっているのです。