2022.02.24
# 日銀 # 量的緩和 # 家計

世界中で「インフレ」なのに、日本企業が「価格据え置き」にこだわる理由

本当に「お客様のため」なのか?
渡辺 努 プロフィール

2006年には日銀が1999年から続けてきたゼロ金利を停止し、金利を正常な水準に戻すプロセスを開始します。ところが間の悪いことに、その直後の2008年に米国でリーマンショックが起こり、日本も巻き添えを食いました。物価はデフレに、金利はゼロにと、元の木阿弥です。こうした不運も重なってズルズルと価格据え置き慣行が続いてしまいました。

価格据え置き慣行から脱却する最大のチャンスが次にめぐってきたのは、2013年です。新たに発足した安倍政権の支援もあり、日銀はデフレ脱却を目標に掲げ、超金融緩和をはじめました。

2013年、就任当時の黒田東彦日銀総裁[Photo by gettyimages]

このときの緩和は異次元の金融緩和とメディアで報道されましたが、「異次元」は決して誇張ではありません。私などは、これだけ異次元だと、デフレ脱却を通り越して高インフレに向かうのではないかと思ったほどです。

しかし、異次元の緩和がはじまって8年が経過した現在、デフレも価格据え置きも終わる気配がみえません。

「価格据え置き慣行」が続く理由

日本における過去四半世紀の価格硬直性の高まりと、それにともなうフィリップス曲線(失業率と賃金上昇率の間の関係を描いた曲線。両者は負の相関関係を示す)の平坦化は、『物価とは何か』で説明したメカニズムである程度説明がつきます。

図1:フィリップス曲線(『物価とは何か』より)
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まず、価格の更新頻度は高インフレ期と低インフレ期で異なります。インフレ率が趨勢的に高い局面では更新頻度が高く、インフレ率がゼロに向かって下がるにつれて、更新頻度が低くなります。この傾向はメニューコスト仮説(「メニューの価格を書き換える費用が惜しいため、原材料が値上がりしても製品の価格を変更しない」という仮説)がもつ性質でもあります。

インフレ率が高い局面では、各企業にとって、価格更新をしないことで失う利益が大きくなります。ライバル企業が価格を引き上げている中で自分だけが乗り遅れてしまうからです。価格を更新しないことにともなう利益の逸失がメニューコストを上まわるので、各企業はメニューコストを支払ってでも価格更新を行うことを選択します。

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