2022.02.15

米アカデミー賞「作品賞」にノミネート!「ドライブ・マイ・カー」に秘められた暗号を解読する

西島秀俊演じる主人公の、

「僕は、正しく傷つくべきだった」

というつぶやきが強い印象を残す映画、「ドライブ・マイ・カー」。

中年俳優の抱える悲哀

濱口竜介監督は主演の中年俳優・家福悠介(西島秀俊)の悲哀と、チェーホフの名作「ヴァーニャ伯父さん」の主人公のそれとを重ね合わせる形で展開する。

現代の広島を舞台とし、韓国人や中国人、ろう者の役者たちが演じる「ヴァーニャ伯父さん」が、これほど感動的なエンディングとして結実するのは、濱口監督の手腕というほかない。

村上春樹の原作「ドライブ・マイ・カー」と同じ短編集に収められている「木野」と「シェラザード」のプロットを巧みに織り込んだ手際の見事さ、それによって一篇の長編に仕立て直した脚本の力も高く評価されている。

「ドライブ・マイ・カー」ティザービジュアル

しかし映画に描かれたものは、村上春樹の意図とは少し違っているように筆者には思える。

――ドライブ・マイ・カーは脚本も読んでないんですか?

村上 読んでない。僕はいったん権利を譲ったら、譲りっぱなしにする方針なので。

――口は挟まない?

村上 口挟まない。

雑誌BRUTUS(2021年11月1日号)で、村上春樹は映画「ドライブ・マイ・カー」について感想めいたことを語っている。

 

村上作品はそのいくつかが映像化されているが、初期の長編「ノルウェイの森」ではあがってきた脚本に村上自身がたくさんの書き込みをし、最終稿の脱稿までにかなりの時間を要したという(NHK-BS「アナザーストーリー」)。

一方、「ドライブ・マイ・カー」では村上が映画の制作過程に関わることはなかった。短編は映像作家が自由につくり替えられる余地が大きいので、「『あとは好きにしてください』という感じ」だと突き放している。

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