漫画『将太の寿司』に感動して来日…韓国人青年が「ミシュラン1つ星」を獲得するまで

ニッポンの食と外国人〈すし編vol.1〉
芹澤 健介 プロフィール

鮨職人としてさらなる高みを

「祥太」という名をもらってからは、ますます仕事に打ち込んだ。だが、ここであることに気づく。

「魚を扱う技術はついてきた。日本語もある程度は話せるようになった。でも、鮨屋の板前はそれだけじゃダメなんです。そのときはまだ、僕にはカウンターで日本人のお客さんと会話するだけの情報量がぜんぜん足りなかった。たとえば、日本の歴史や文化だけじゃなく、季節の節句や器のことも勉強する必要がありました」

祥太氏の人当たりの良さも人気の秘訣。その人柄に惹かれて足を運ぶ常連も多い。

7年目には赤坂の店を任されるまでになり、9年目にいよいよ独立となった。その後の祥太氏の活躍は冒頭で述べたとおりだ。

だが、師匠の金坂氏は、あの日、面接をした時、ほとんど日本語を話せなかった青年がここまでの鮨職人に成長すると見込んでいたのだろうか。

「いや、わからないですよ、パッと会っただけでは。でも、雇うからには、一人前にしてやるのが親方の役目でしょう。夢があるなら、夢を見させてやる。それが上の人間の務めだと思ってます。

鮨職人なら、一人でツケ場に立てるようになるまで面倒を見るのは親方の責任ですが、そこから先は個人の責任なんです。アイツは自分でもがんばった。それがお鮨に出ますよね。だから私は彼のお鮨が好きで、時々無性に食べたくなるんです」(金坂氏)

 

今後、祥太氏は鮨とどう向き合っていくのだろうか。

「日本と韓国って、国同士はあんまり仲がよくないですけど、ありがたいことに僕は日本に来てから一度も差別を受けたことがないんです。お客さんも、『お、韓国人か、がんばれ』とか、『外国から来てよくがんばってるね』と言ってくれる人が多かった。親方をはじめ、日本の人たちが僕を受け入れてくれた。だから、仕事に集中できたんだと思います」

「コロナが落ち着いたら両親を呼びたいです」と祥太氏。

今後は後進の育成にも当たりたいという祥太氏だが、自分自身、鮨職人としてさらなる高みを目指したいと言う。

「ウチはいま、おまかせのコースで1万6000円いただいています。決して安くはないですが、お金を貯めて来てくれる若い方やカウンターで鮨を初めて食べるというお客さんもいらっしゃいます。そういうお客さんにとっては、初めて食べた僕のお鮨が基準になると思うんです。もし、最初のお鮨がまずいと思われたら、大変ですよ。責任重大。だから、絶対に気が抜けません」

そして、もっとカッコいい鮨職人になりたいのだと言う。

「僕は韓国人ですけど、これだけ素晴らしい日本のお鮨という文化の中で職人になれた。だから、もっともっとカッコいい鮨職人になれれば、そういう僕を見て『自分も鮨職人になりたい』という人が増えると思う。それが一番うれしいですね」

突飛なたとえかもしれないが、二刀流の大谷翔平がアメリカの子供たちを大いに刺激しているように、“祥太の鮨”に感動して職人を目指す日本人の若者も出てくるはずだ。いや、その前に、祥太氏自身が漫画の主人公になって、その作品が世界中で読まれる日が来るかもしれない。

すし家 祥太
[住所] 東京都港区麻布十番3-3-10 LANIビルⅡ 1F
[電話] 03-6722-6588
[営業時間] 昼12:00~14:30(L.O.14:00)、夜17:30~22:30(L.O.22:00)
[定休日] 月曜日、第1・3日曜日
ニッポンの食と外国人〈すし編vol.2〉は、銀座の名店「鮨むらやま」で修業する中国出身の女性鮨職人、温舒祺(オン・ショウキ)さんにインタビュー。

⇒【vol.2】銀座の「ミシュラン1つ星」鮨店で育まれる、国籍も性別も超えた“新しい師弟関係”

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