キーマンを殺す下人
ここまでの物語で怖さの象徴となっていたのは、平清盛(松平健)ではなく、その威光を後ろ盾に伊豆でのし上がった伊東祐親(浅野和之)。娘・八重(新垣結衣)と源頼朝の間に生まれた幼い千鶴丸(太田恵春)を下人の善児(梶原善)に殺させたほか、第5話でも次男・伊東祐清(竹財輝之助)に、「北条を引っ張っているのは宗時。いなくなれば北条は崩れる。北条の陣にまぎれ込み、宗時を闇討ちにせい」と、再び孫への暗殺指令を出した。

一方、娘・八重(新垣結衣)が見せたのは、そんな父とは異なる意味での怖さ。身を案じて父の館に移ることを勧めた夫・江間次郎(芹澤興人)に、「船を出しなさい!佐殿(源頼朝)に(伊東の動きを)お伝えしなければ。お助けするのです」と冷たく言い放った。
「できません。私はあなたの夫だ!」と叫びながらも、けっきょく泣きながら船を漕ぐ江間。妻に振り向いてもらえず、その愛情を独占する敵のアシストを強いられる江間の悲しい姿は、「当時の人間関係がいかに人を縛る怖いものだったか」を物語っていた。
その他にも、敵の急襲を受けて北条義時が命を落としかけるシーンや、敗走を強いられた源頼朝が「北条を頼ったのが間違いだったわ。時政、何とかせい。わしはここで死ぬわけにはいかんのだ。命にかえてわしを守り抜け!」と理不尽に怒るなどのスリリングなシーンもあった。
しかし、極めつけはラストシーン。第1話から源頼朝に挙兵を促し、北条を引っ張ってきた北条宗時が下人の善児に殺されてしまった。とても重要人物とは思えない下人の善児が、キーマンや幼児をあっさり殺してしまう怖さこそが、もしかしたら『鎌倉殿の13人』の本質なのかもしれない。