「おいらはやくざな兄貴」と歌う『男はつらいよ』寅さんの仕事が「ブルシット・ジョブ」である理由

世界のあちこちで起きている「クソどうでもいい仕事(ブルシット・ジョブ)」現象。マフィアの殺し屋ややくざの仕事はブルシット・ジョブとはどういうことか? 『ブルシット・ジョブの謎 クソどうでもいい仕事はなぜ増えるか』著者の酒井隆史さんが解説します。

 

寅さんの仕事はブルシット?

人類学者のデヴィッド・グレーバーは、ブルシット・ジョブの「ブルシット」という言葉のはらむ「あざむき」あるいは「欺瞞」の次元に、マフィアの殺し屋がなぜブルシット・ジョブではないのか、を検討することからアクセスしています。

マフィアの殺し屋はブルシット・ジョブかといわれるとなんか違和感がないでしょうか? 無意味で有害かもしれませんが、なんかちがうな、という感じですよね。まあ、もともとそれが「仕事」か、というのもあります。

しかし、一番重要なことは、マフィアは率直であるということです。つまり、じぶんたちが「やくざ」な稼業をしていることを認めているということです。

そういえば、そもそも「やくざ」という呼称の由来がそうです。「やくざ」とは、もともと花札で複数の札をひいてその合計点によって勝敗を決めるゲーム(「おいちょかぶ」といいます)で、「8・9・3」の組み合わせは0点(全部足すと20で、0とみなされます)で最悪なのですね。

この「どうしようもない最悪の目」から転じて、「やくざ」という言葉が、なんの役にも立たない人間という意味で使われるようになったといわれています。

要するに、そもそも「やくざ」という名称そのものが「無意味」という意味であって、「かたぎの社会に寄生して生きるごくつぶし」という一種の自嘲が込められているわけです。

たとえば、『男はつらいよ』の車寅次郎は、「どうせおいらはやくざな兄貴、わかっちゃいるんだ妹よ」と、主題歌の出だしから「じぶんは役立たずの人間である」という自嘲ではじめます。

いつかおまえのよろこぶようなエラい兄貴になりたい、とはいうものの、いまの稼業は「ブルシット」であるといっているのです。もちろん、「やくざ」が、じぶんたちは共同体に貢献しているのだということを強調したり、フロントのなりわいをつくったりしているのもたしかです。

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