技術こそが最強の取り引き材料
経済安全保障の基本は、(先に述べた供給先の分散化とともに)取引材料を持つことだ。他の国では絶対に提供できないものを作れることである。その国をつぶしたら世界経済が立ちゆかなくなってしまうような技術を持つ企業や産業を作ることだ
TSMCはその好例だ。これをつぶせば、最先端の半導体が製造できなくなる。世界にとって、台湾の存在が不可欠なのだ。
では、日本は取引材料にできるような企業や産業を持っているだろうか?
自動車は日本の基幹産業だが、仮に日本の自動車会社がつぶされたとしても、自動車を生産できる会社は世界中に沢山ある。だから、自動車を安全保障のための取引材料に用いることはできない。
半導体について言えば、製造装置や材料では日本は強い。しかし、日本でしか作れないというものではない。
最先端の半導体製造装置は、極小回路をシリコンウエハーに印刷する極端紫外線リソグラフィ(EUV)と呼ばれるものだ。この製造は、オランダのASMLが独占していて、年間50台くらいしか生産されない。こうしたものこそ、取引材料となしうる。
現在、自動車の生産は半導体の生産で制約されている。様々な電子部品もそうだ。ただし、これはいずれは解消されるだろう。
しかし、先端半導体はこれとは別だ。最先端の技術を持つものが主導権を握る。そして世界の製造業を支配することになる。
こうした問題に対処することこそ必要だが、それは、補助金を出すことで実現できるものではない。