被害者が逃げられない「解離」状態

話を元に戻そう。先ほどいった、Aや友人の「高い買い物」という言葉は、今も私の胸に突き刺さり苦しめる。この言葉は、Aがしていた性暴力を理解していないことは愚か、加害男性が被害者意識さえ持っているということだ。実際、「高い買い物」以外にも、「親が死んだらお前のせいだ、一生恨んでやる」とも言われ続けた。

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「レイプ」「性暴力」「性被害」というと、そのときの行為の内容がセンセーショナルに扱われる。性暴力の恐ろしさはそればかりではない。そのとき受けた苦しみと同じくらい、もしかするとその最中の出来事以上に、後遺症や消化できない思いに悩まされてしまうのだ。

私の場合、肩に手を回された瞬間から、心もからだも凍ってしまい、いわゆる「フリーズ」状態になり、その後に続く「解離」(※1)の症状が始まったように思う。この「解離」が起きると、もはや痛みも苦しみも何も感じずその場をやり過ごすことができる。皮肉なことだが、この「解離」のおかげで、当時の私はひどい性暴力を受けた加害者のAと分かれた直後に単語帳を開き、相手に奪われた時間の分を挽回するように全集中力を傾け勉強に集中していた。

この時期に私の中で形成されてしまった「暴力を受けるための人格」は今も私の中でしっかり生き残っていて、防衛本能的に、男性を前にするとこの人格が勝手に表に出てしまうことがある。ひどいことをされても「苦しい」とか「嫌だ」とかの感覚は無意識に殺してしまい感知できない。

「解離」しているときは意識が飛んでいる状態だから、暴力には非常に脆弱で、Aと離れた後も、気づけばトラウマの再演的行為が繰り返されきた。そして、大学や仕事、友人の前では日常を過ごす別の人格でやり過ごしてしまっているから、周りも気づきようがないのだ。

※1:ストレスや心的外傷などによって、意識や記憶などの感覚に対する能力が一時的に失われた状態になることを言う。意識、記憶、思考、感情、知覚、行動、身体イメージなどが分断され、健忘、現実感覚の喪失などが起きてしまうこともある。

嫌なのに、動けなくなる「解離」状態に陥ってしまうケースは少なくないという。photo/iStock