近年、認知症を含む高齢者が「加害者」となる事故が後を絶たない。本人に悪意がない場合、目の前で起こる悲劇に、近くにいる家族はどう向き合えばいいのか。

この問いにひとつの答えを示す映画『誰かの花』が1月29日に公開される。「被害者遺族」が「加害者の家族」になるかもしれない状況に陥り葛藤する様を描いた本作は、脚本と監督を手掛ける奥田裕介氏の実体験と取材に基づいているという。奥田氏に、作品に込めた思いについて聞いた。

『誰かの花』あらすじ
数年前に交通事故で兄を亡くしている主人公・孝秋(カトウシンスケ)は、薄れゆく記憶の中で徘徊する父・忠義(高橋長英)と、そんな父に振り回される母・マチ(吉行和子)のことが気がかりだった。強風吹き荒れるある日、実家の団地で事故が起こる。ベランダから落ちた植木鉢が住民に直撃し、救急車やパトカーが駆けつける騒動となったのだ。父の安否を心配して実家を訪れると、忠義は何事もなかったかのように自宅にいた。だがベランダの窓は開き、忠義の手袋には土がついていた。そして、その様子を忠義のヘルパー(村上穂乃佳)も見ていた……。

「人がどう葛藤して、どう生きるか」を描きたかった

『誰かの花』より

――本作は、横浜黄金町にある老舗の映画館、横浜シネマ・ジャック&ベティの30周年企画として制作されました。映画には映画館周辺の景色が散りばめられていて、映画館のファンも喜ぶでしょうね。

奥田監督:僕は横浜生まれ、横浜育ちで小学生の頃からジャック&ベティさんに通っていたご縁もあり、今回声をかけていただきました。30周年の映画というと、お祭り的なものやまちおこし的な作品を想像すると思うのですが、そうではなく、僕の映画の原体験を再現したいと望んでいました。

――というと?

奥田監督:一過性の内容ではなく、ずっと観客の心に残り続けて、コミュニケーションや会話を生む映画を作りたかったんです。小学生の頃から母と一緒にジャック&ベティさんでイラン映画や台湾映画など様々な映画を観てきました。映画館の帰り道に映画について母と話すと、お互いの意見が食い違って討論みたいになるときもありました。

母には母の考えがあり、僕には僕の考えがあり、そのどちらも間違ってはいない。そんなふうに違う視点も成立するんだな、と子どもながらに思ったんです。それが僕の原体験で、「観客自身がその映画を完成させていく」作品作りを目指したかったんです。

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――確かに、この作品は見る人によって捉え方が異なると思います。冒頭からサスペンスフルで「植木鉢を落としたのは誰なんだろう?」「殺人の意図があったのだろうか?」とミステリーものを観ているような気がしていましたが、実は人間を描いたあたたかなストーリーで驚きました。

奥田監督:「人がどう葛藤して、どう生きているか」を描きたかったのですが、それを引っ張っていくストーリーに「犯人探し」のようなミステリーを見出す人もいるかもしれませんね。「善意から生まれた悲劇」から「救い」まで描きたかったので、その救いの部分に“あたたかさ”を見つけてくださったとしたら嬉しいです。