食べることは、生きる基本。だから、子どもは“食育”を通して、食にまつわる正しい知識を身につけ、生きる力を育みます。でも、大人はどうでしょう? 食を取り巻く状況は日々目まぐるしく変わっています。深刻化している貧困問題や、社会全体での取り組みが叫ばれている食品ロス問題。漁業も、農業も、今大きな転換期にあります。未来の食を考えるには、現状を知ることが大切。今知っておきたい食の課題と、解決に向けた取り組みを学びましょう。

野生動物による農作物への被害が深刻化している昨今、駆除した動物の肉を活用できるジビエに注目が集まっています。

お話を伺ったのは……
藤木徳彦さん
ふじき・のりひこ/日本ジビエ振興協会代表理事、オーベルジュ・エスポワールのシェフ。ジビエの魅力を全国に発信。著書に『フレンチシェフが巡る ぼくが伝えたい山の幸 里の恵み』(旭屋出版)など。

有害鳥獣を食卓へ。
ジビエが農家を救う。

調理前のシカのロース。柔らかく、きめ細やかな高品質のものを使用する。正しい食肉処理を施された肉は、安全で臭みもない。

日本ジビエ振興協会の代表理事を務める藤木徳彦さん。1998年に開店した自身のレストラン「オーベルジュ・エスポワール」はフランスのオーベルジュを目指し、徹底した地産地消を理念として掲げている。

「寒い長野県では、冬にお客さまに提供できる食材が少ないのですが、11月から2月の狩猟の解禁期間には、野生のシカが獲れます。レストランをはじめた当時、地元の人のジビエに対するイメージは臭い、硬い、おいしくない肉というものでした。しかし地元で獲れたシカを食べてみたら、とてもおいしかったんです。正しい食肉処理や調理方法を知らず悪い印象を持ってしまっているだけだと思い、それを払拭するためにもジビエをメニューに取り入れました」

今やジビエはレストランの看板メニューとなり、全国から多くのファンが足を運んでいる。

あるとき、藤木さんは農家の鳥獣被害について耳にする。農家の協力のもと地元の良質な食材を提供しているレストランにとって、とても他人事ではない話だった。

丁寧に筋を取り除くことで、柔らかい食感に。
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「2000年頃から、シカやイノシシなどの野生動物に畑を荒らされ野菜が食べられてしまう被害が増加。年々被害の規模は大きくなり、農家をやめてしまう人も出てきました」

鳥獣被害が深刻になり、長野県では有害鳥獣を駆除することを推奨しはじめる。狩猟期間外でも農業被害を引き起こす野生動物は捕獲することが許され、自治体から報奨金が出ることになった。

「有害鳥獣の駆除を進めているのにもかかわらず、ジビエとしてレストランで提供する肉はニュージーランドやカナダから輸入しているところがほとんど。しかもそれらの肉は、野生の動物を飼育して家畜化した半野生のもの。輸入肉はいつでも手に入るし品質も安定しているので、比較的簡単に使用できます。しかしたくさんのシカを駆除して捨てている一方、食べるためにわざわざシカを輸入する。そんな仕組みに矛盾を感じました」

本来、山に住んでいるはずの野生動物は天敵の減少などで頭数が増え、弱い個体は里に下りてくる。昔に比べて増えている耕作放棄地は、動物たちにとって格好の住まいとなり、里に住み着く動物も多い。農林水産省の発表によると、令和元年度の鳥獣による農作物被害額は158億円にものぼった。

「鳥獣被害が増えたのは、環境の変化や農村の過疎化など複合的な原因があります。戦後に人間が野生動物の狩猟に関するルールをつくり、手厚く保護をしたことで数が増えすぎたことも事実。そして今度は有害鳥獣捕獲によって、生態系が乱れてしまった例も出てきました。捕獲された動物は、穴に埋める埋設処理か、焼却、野生鳥獣専用の食肉処理施設で処理をすることが決まっています。しかし、なかには捕獲した動物を法外に屋外に放棄してしまう人も。その死骸をイタチや猛禽類など雑食性の小動物が食べることによって、小動物の数もどんどん増えていきます。小動物による農作物の被害がなくならない一つの要因です」

低温でじっくり火を通すのがおいしさのポイント。季節ごとに多様な風味を味わえるジビエを、その時々の最適な調理方法で提供する。