大阪ビル放火、東大前刺傷…「拡大自殺」狙った事件の連鎖、その「社会背景」を読み解く

今、必要な「社会的包摂」

日本最大の社会福祉法人 恩賜財団 済生会は、昨年12月24日、岸田文雄首相を本部長とするSDGs推進本部より『第5回ジャパンSDGsアワード』の「SDGs推進副本部長賞(内閣官房長官賞)」を受賞した。

持続可能な開発目標(SDGs)へ向けて優れた取り組みを行う企業・団体の表彰を行うものだが、明治天皇が医療によって生活困窮者を救済しようと設立した済生会は、医療・福祉が届きにくい人々への支援を続けてきたのに加え、一昨年度からは誰も取り残さずに共生する社会を目指すソーシャルインクルージョンの理念を、具体的な事業として実践している。

 

昨年末から年初にかけて、孤立の果て他人を巻き込み自殺を遂げようとする「拡大自殺」を狙った事件が連鎖した。自身が患者だった心療内科クリニックに火をつけた61歳の男と、東大前の歩道で大学入学共通テスト受験生ら3人を刺傷した17歳の少年とは、育った環境も抱えた事情も異なるが、人を道連れに自殺を図る歪さは同じであり、孤立を放置せず包摂(インクルージョン)する社会的な仕組みを確立できないかという思いは残る。

炭谷茂・済生会理事長は、厚生省社会援護局長、環境省事務次官などを経て済生会理事長に就いたが、20年以上前から人々を孤独や孤立、排除や差別から援護し社会の構成員として包み支え合う、ソーシャルインクルージョンの理念の普及に尽してきた。
「拡大自殺」を狙った事件が急増する背景とその処方箋を炭谷氏に聞いた。

社会福祉法人 恩賜財団 済生会の炭谷茂理事長

事件の背景をどう見る?

――北新地放火事件の背景にあるものは何でしょうか。

個人と社会、2つの要因があると考えられます。このうち病理を含む個人的な要因は、本人が亡くなっており、解明は容易ではありませんが、社会的要因については、年々、深まる孤立感と、生活保護が認められずに貧困を極めた人を救済する仕組みが欠けていたことが挙げられます。

――孤立や貧困は、今に始まったことではありません。

確かに、いつの世も抱える問題ですが、それがここ20年の間に深刻化、さらに状態が悪化しています。産業構造の変化は激しく、グローバリゼーションがそれに輪をかけ、終身雇用などの雇用関係は崩れ、企業のリストラが横行しています。少子化のなか家族関係は希薄化、高層やワンルームマンションで地域社会、コミュニティーは失われています。また、人はSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)で繋がっているものの、リアルで情緒的な交遊は失われがち。さらに2極化の進行が、ここ15年ぐらいの間に貧困の度合いを高めています。

――東大前刺傷の高2生徒の事件は、状況が違いますか。

個人的な要因は違いますが、社会的な要因は同じと考えていい。成績の悪化に孤立感を深め、SNSは盛んでも、人との繋がりが希薄化しています。家庭や学校はそれなりにケアしていたかも知れませんが、社会的に救済するシステムがなければ放置していたのと同じです。一見、恵まれていても心のなかにある闇を包摂、インクルージョンすることが必要でしょう。「拡大自殺」を防ぐのは政治、行政の役割が大きいのです。

 
この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら

関連記事