2022.01.29

さだまさし、かぐや姫、荒木一郎…「学生街の喫茶店」で流れていた、昭和の名曲

週刊現代 プロフィール

「私が通っていた明治大のキャンパスは、今も昔もお茶の水にあります。私が通い詰めていたのは、『レモン』という喫茶店でした。あの店は画材屋の片隅のこぢんまりとした所で、10人ほどでいっぱいになった。

ビルの5階にあったので、店の窓からは御茶ノ水駅のホームが見えました。私はいつも椅子に腰かけ、電車が行きかう風景を見つめていました。

強く印象に残っているのが、さだまさしさんの『檸檬』('78年)という曲です。そう、偶然にも店名と一緒なんです。梶井基次郎の同名小説では主人公が京都の本屋・丸善に積まれた画集の上に檸檬を置いて立ち去りますが、さださんは舞台をお茶の水に置き換えている」

増淵さんが学生として過ごした'70年代後半は、学生運動も過去のものとなり、新たな時代へと向かう端境期にあった。

 

増淵さんは映画の自主制作サークルに所属していたが、ろくに映画作りには関わらなかった。その代わり、サークルで知り合った友達と「レモン」に入り浸り、映画談義に花を咲かせたという。

「あの頃は、海外文化が入ってくる時代でした。私たちは、アメリカの青春映画に夢中になっていた。代表的な作品といえば、『アメリカン・グラフィティ』です。他にも、主人公の青年が出征中の夫を待つ人妻に恋する『おもいでの夏』という映画も大好きだった。

当時の青春映画は、自分の置かれた環境と重なるんです。自由な大学生活が終われば、厳しい社会人生活が待っている。人生最後のモラトリアムを過ごしているという自覚もありました。さださんの『檸檬』を聴くと、駅のホームを眺めながら友達と映画の話をした遠い日が思い出されます」

青春時代のあの日、親友と、恋人と過ごした「学生街の喫茶店」。そこで目にした情景は、今でも心の中にある。

『週刊現代』2022年1月29・2月5日号より

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