2022.01.29
# 週刊現代

昭和の時代「学生街の喫茶店」に救われた人たちの証言

150円で何時間も粘った

蒼空を翔けたいんです

下宿先のアパートを抜け出し、街に繰り出したあの日。引き寄せられるように若者たちが集ったのは、なんでもないような喫茶店だった。そこで出逢った思い出の歌は、かけがえのない青春の財産となっている。

あの頃、学生街の喫茶店には名曲が溢れていた。

漫画家のいしかわじゅんさん(70歳)がしみじみと語る。

「僕にとって、吉祥寺こそが学生時代を過ごした大切な街でした。当時、僕は下宿があった吉祥寺からお茶の水にある明治大学に通っていました。あの頃の吉祥寺には、貧乏学生や売れないミュージシャン、作家が大勢住んでいた。

僕が入り浸っていたのは、ぎんぎら通り13番地と呼ばれた場所にあった『ぐゎらん堂』という喫茶店でした。大学生だった僕は、暇があれば『ぐゎらん堂』に通っていた。当時のコーヒーは一杯150円くらい。その一杯で、何時間も粘り続けました」

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当時、いしかわさんは喫茶店で貪るように漫画や小説を読み耽っていた。上村一夫の『同棲時代』や、漫画雑誌「ガロ」で活躍した安部慎一、鈴木翁二の漫画、さらには夢野久作の怪奇小説『ドグラ・マグラ』や横溝正史のミステリーにも夢中になった。

ページを繰るたび、次々と新たな世界が開かれる。まだ20歳だったいしかわさんは、時間が経つのを忘れて作品に没頭した。

そのとき、店に流れていたのは「はっぴいえんど」の名曲『風をあつめて』('71年)だった。

細野晴臣によるアコースティックギターのイントロから始まるこの歌はどこまでもセンチメンタルだ。主人公の「ぼく」は、街のはずれの路地をひとり歩きながら、孤独を噛みしめる。自分はこれからどこへ向かうのか。若さゆえの葛藤や心もとなさを抱えながら、自らを励ますように歌う。

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