高画質でも遅延ほぼゼロ! データ伝送に革命を起こす「光スイッチ」とは?

世界一を上書きした若き研究者に訊く

リモートワークが浸透して、オンラインでの会議や打ち合わせもすっかり日常化してきたが「対面と比べてどうも調子が・・・・・・」と思っている人は多いだろう。映像が伝送されるときの「遅延」によって生じる「間」が、その違和感の原因だ。

この「コロナ禍あるある」を見越していたわけではないだろうが、こうした遅延解消にもおおいに役立つデータ伝送技術において、日本はいま、世界のトップを走っていることをご存じだろうか? そして、その先頭に立っているのは、なんと研究生活を始めてまだ3年目の若者なのだ。こ、これはいやでも、探検隊マインドに火がついてしまうではありませんか!

4Kなのに「遅延ほぼゼロ」の中継画像

窓際に設置された4Kビデオカメラをズームしていくと、大型ディスプレイにレインボーブリッジが鮮明に映し出された。上下2段のデッキを縫い合わせるようなジグザグの補剛桁を通して、内側を渡っていく車の1台1台がはっきり見える。その奥には新交通ゆりかもめが走っているのもわかる。さすが4K映像だ。

けれども、これは普通の4K映像ではない。ビデオカメラは産業技術総合研究所(産総研)の臨海副都心センターの一室にあるが、ディスプレイとそれを見ているわれわれ探検隊は、そこから70km以上離れたつくば市にある産総研の研究室内にいる。そして、映像の伝送に使っているのはインターネットではなく、光ファイバーの専用線。産総研の光ファイバー通信技術を実証実験するためのテストベッドである。

「4K映像による中継放送などは一般に行われるようになってきていますが、実はそうした映像は、まだ4Kの映像を100%は生かし切れていません」

臨海副都心センターのほうにいる松浦裕之さんが、ディスプレイからこちらに語りかけてくる。産総研の研究員であると同時に、株式会社光パスコミュニケーションズの代表でもある。同社は産総研の光ファイバー通信技術を社会実装するために2017年に設立された。

【写真】遠距離じゃんけんつくば市から遠く離れた臨海副都心センターから、ほぼ遅延ゼロで話しかけてくる松浦さん(ディスプレイの中の人物)

「というのは、伝送の過程で信号処理がパンクしないように、途中でデータ圧縮を行っているからです。そのため、どうしても細部で画質が劣化してしまいますし、すばやい動きを撮影すると処理が間に合わなくなり、画像にギザギザの乱れが生じることもあります」

このデモでデータ圧縮が不要なのは、光ファイバーの専用線だからではない。ダイナミック光パスネットワーク、略して「DOPN」と呼ばれる技術が使われているからだ。

通信ネットワークにはスイッチング回路が不可欠だが、従来の光ファイバー通信ではスイッチングに電気スイッチ(電子デバイス、電子ルーター)を用いるため、一度、光信号を電気信号に変換してからスイッチを通し、その後、再び光信号に変換するというプロセスが避けられない。

伝送している光ファイバーがどんなに広帯域でも、このスイッチングのところがボトルネックになってしまい、データが大容量になるにつれ、どうしても圧縮が必要になってくる。

これに対して、DOPNは、光信号のままでの通信を可能にするネットワーク技術なのだ。松浦さんが説明を続ける。

「DOPNは、映像や音声といった大きなデータを伝送するときにとりわけ威力を発揮します。超広帯域であるだけでなく、ほぼゼロ遅延、超低消費電力といった長所があります。今後、遠隔医療や遠隔教育、あるいはコンサートやeスポーツなどのコンテンツ配信の需要が膨らむなかで、従来の方法では、データ量とともに増大する消費電力が課題となることは避けられません。そのとき、DOPNは必須の技術となると私たちは考えています」

ほぼゼロ遅延に関しては、このデモでも実感することができた。

インターネット回線を使ったビデオ会議で不便に感じることのひとつが、複数で話し合っていて、話し手が切り替わるときの間合いだ。こちらが口火を切ろうとすると、ほかの人が話し始めて声がかぶってしまうことが少なからずある。かといって、かぶらないようにと発言をためらっていると、話すきっかけを逃してしまったりする。

このデモでは遅延がないからか、そんな間合いの悪さを感じなかった。

ディスプレイから松浦さんが「じゃんけん」をしてみましょうと提案してきた。そして、まるで松浦さんが目の前にいるようにじゃんけんができた。いつものリモート会議なら、こんなことはできなかっただろう。

リモートじゃんけんでも違和感なし!

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