2022.01.30
# 細胞

無生命でも増殖する"人工原始細胞"の誕生

子供にDNAを分けることも実現

連載の第1回から第3回では、DNA(デオキシリボ核酸)を素材にして様々な構造物をつくる「DNAオリガミ」という技術を紹介しました。そして第4回から第6回では、そのDNAオリガミに、微小管とキネシンというタンパク質を組み合わせて、群れをつくるナノサイズのロボットや、人工筋肉をつくる技術にスポットを当てました。

これらのDNAやタンパク質は、生体内で遺伝情報を伝えたり、様々な物質を運ぶのが本来の役目です。それを人間が、全く別の形で利用しようとしているわけです。

あまり目立たないのですが、私たちの体には、もう1つ「リン脂質」という重要な物質があります。それはDNAやタンパク質の器である「細胞膜」の材料です。最近は中身のない膜だけでも、変形したり分裂したりできることがわかってきました。今回からは「生命の起源」に関する研究でも注目されている、リン脂質に秘められた可能性を見ていきましょう。

細胞膜は洗剤に似た物質でできている

「細胞膜はシャボン玉のようなものだ」と言ったら驚くでしょうか。空中を漂い、屋根まで飛んで壊れて消えてしまう、あのシャボン玉です。そんな頼りないものが私たちの体を構成しているとは、ちょっと思えませんよね。しかし化学的に見ると、どちらも「両親媒性分子」でできた「二分子膜」であるという意味で同じなのです。

両親媒性分子とは、水にも油にも溶ける分子で「界面活性剤」とも呼ばれます。つまり洗剤です。ご存知の通り水と油は通常、お互いに混じり合いません。しかし両親媒性分子があると、それが仲立ちをして水と油は混じり合います。食器についた油汚れが水と洗剤で落とせるのは、そのためです。

そして二分子膜というのは、この両親媒性分子が二層(二重)に並んでできた膜という意味です。シャボン玉の膜は1マイクロメートル(1000分の1ミリメートル)前後の厚みしかありませんが、実は2枚の膜からできており、その隙間には水が入っています。それに光が当たると1枚目の膜で反射する光と2枚目の膜で反射する光とに分かれ、お互いに強め合ったり弱め合ったりする(干渉する)ため、虹のような模様が浮かび上がるのです。

【CG】虹色のシャボン玉虹色のシャボン玉 photo by gettyimages

シャボン玉に使われるのは石鹸水や台所洗剤などですが、さすがに細胞膜を構成するのは、そのような洗剤ではありません。いくつか種類があって、ひとくくりにする場合は「リン脂質」と呼ばれています。大雑把には名前の通り「リンを含んでいる脂」と捉えておけばいいでしょう。ただ「脂」というと固体のイメージですが、リン脂質は液体に近い性質を示す場合もあります。

分子が縦にぎっしり並んで膜になる

両親媒性分子を模式的に表すと、丸い「頭」に細長い「足」が直接、生えたような形になっています。頭は水になじむ部分で「親水基」とも呼ばれます。足は水になじまない部分(すなわち油になじむ部分)で「疎水基」とも呼ばれます。洗剤に使われる分子の足はたいてい1本ですが、リン脂質には2本あります。

両親媒性分子が膜をつくった状態というのは、頭を水のある方に向けて(あるいは足を油のある方に向けて)縦にぎっしりと並んだ状態です。満員電車に押しこめられている人々を、思い浮かべてもいいでしょう。

シャボン玉の場合、膜と膜との間に水があるので、頭はそちらを向いています。つまり水の層をはさんで、分子が頭を突き合わせつつ2列に並んでいるのが、シャボン玉の二分子膜なのです。

一方で細胞は、細菌やアメーバなどを思い浮かべた場合、たいてい水の中を漂っています。人間の体も50〜80%が水ですから、その細胞も水の中といっていい状態でしょう。となると細胞膜の両親媒性分子、すなわちリン脂質は、どちらに頭を向けているでしょうか?

【図】細胞膜(脂質二重層)リン脂質の分子が2列にぎっしり並んで細胞膜(脂質二重層)になる illustration by iStock

二分子膜ですから、まず外側の膜は頭を周囲にある水の方へ向けていなければなりません。そして内側の膜ですが、細胞内も基本的には水で満たされているので、そちらへ頭を向けていることになります。なのでシャボン玉とは逆に、足側を突き合わせながら2列に並んでいるわけです。そして膜と膜との間は、水になじまない領域になっています。

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