2022.02.10

驚きの機能!細胞レベルで行われている「有害物の隔離・除去システム」とは

免疫細胞によるシステムと連動して命を守る
吉森 保 プロフィール

オートファジーで、コロナも除去するか

オートファジーによる細菌などの隔離除去は、自己の成分ではなく外から入ってきたものを食べることから「ゼノファジー(xenophagy)」とも呼ばれている。xenoは異物という意味である。ゼノファジーは世界中で研究され、対象となる細菌がさまざまであること、さらには細菌にとどまらずウイルスや原生動物など広範な病原体が駆除されることが明らかになった。

興味深いことに、オートファジーを回避する能力を持つものや、オートファジーを利用して増殖する病原体まで見つかっている。長い年月の間、それぞれが進化することで繰り広げられてきた宿主細胞対病原体の熾烈な闘いが今も続いているのだ。

ちなみに、コロナウイルスはオートファジーを妨害するタンパク質を持っている。現在、私の研究室では、新型コロナウイルスSARS-COV-2について妨害タンパク質を無力化してオートファジーによってウイルス増殖を阻止することができないか研究している。

【イラスト(CG)】新型コロナウイルスSARS-COV-2増殖を阻止新型コロナウイルスSARS-COV-2増殖を阻止できないか研究を続けている CG by gettyimages

より広範な新しい免疫システム

病原体の隔離除去という3つ目のオートファジー機能の発見は、自己の成分を食べるというこれまでのオートファジーの定義を書き換えただけでなく、新しい免疫システムという点でも大きな注目を集めた。

生物は、体内に侵入してきた細菌などの有害物、いわば敵を排除する仕組みを持つ。それが免疫システムで、体内に侵入してきた有害物の排除は、マクロファージやB細胞、T細胞などといった「免疫細胞」と呼ばれる特別な細胞が行うものだと考えられてきた。

それに対してオートファジーは、ほぼあらゆる細胞が持っている仕組みである。つまり生物は、免疫細胞といういわばプロの防衛軍だけではなく、個々の細胞(一般市民)が自らも病原体を排除する自衛手段を持っていたのだ。これまで知られていたより広範な二重の防御システムがあったということだ。


病原体以外の有害物も包んでポイ!?

なお、栄養源の確保や代謝回転に働くオートファジーは、ランダムに細胞成分を分解する。一方ゼノファジーは選択的に病原体を隔離する「選択的オートファジー」である。実は選択的オートファジーは、病原体だけではなく様々な有害物に対して起こることも判ってきた。

例えば、壊れたオルガネラだ。オルガネラのひとつであるミトコンドリアはエネルギーを作り出すいわば発電所である。これに穴が開くと、放射性同位元素はでないが活性酸素という猛毒の物質が漏れて、細胞が死んだり、発がんしたりして極めて危険だ。このような穴の開いたミトコンドリアは、選択的オートファジーが直ちに処理してくれる。


またアルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患と呼ばれる病気は、脳の細胞にタンパク質の塊が溜まってそのせいで細胞が死ぬことで起こる。脳の神経細胞は、一生の間ほとんど入れ替わらないのでいったん死ぬと再生が期待できない。選択的オートファジーは神経変性疾患の原因となるタンパク質の塊も除去する。

このように選択的オートファジーは、「有害物の隔離除去」という病気の抑制に直結する重要な役割を担っている。この「有害物の隔離除去」こそがオートファジーの3つめの主要機能なのだ。