2022.01.27

地球の中身はなんだろな? マントルの底、深さ2900kmの鉱物にタッチする!

カギを握るのはダイヤモンド
廣瀬 敬 プロフィール

ダイヤモンドで押しつぶせ

ダイヤモンドは、この世で知られるもっとも硬い物質だ。2つのダイヤモンド片で鉱物試料を挟み、加圧する高圧実験装置がある(写真1)。この装置をダイヤモンド・アンビル・セルとよぶ(以下、ダイヤモンドセル装置と略す)。

【写真】ダイヤモンド・アンヒル・セル装置写真1 ダイヤモンド・アンビル・セル装置

ダイヤモンドセル装置を用いた実験により、リングウッダイトは下部マントルの圧力下(24万気圧以上)で2つの鉱物に分解することが明らかになった(1974年)。2つの鉱物とはブリッジマナイトとフェロペリクレースである。ブリッジマナイトは地球にもっとも大量に存在する鉱物で、すべてを足し合わせると地球の体積のほぼ半分を占めると見積もられている。また、ほかの鉱物と比べて非常に硬く、色は薄い茶色を呈す。

著者は1998年に、ダイヤモンドセル装置を擁する高圧実験室を立ち上げた。当初の狙いは、最下部マントルの鉱物の合成であった。

その時点で、地震波観測のデータから、マントル内部の深さ2600kmになんらかの層境界があることがわかっていた。その層境界の成因はまったくわかっていなかったものの、主要鉱物の相転移が起きているにちがいないと踏んでいた(当時そのように考える研究者は少数派だった)。この予想を確かめる方法はただひとつ――ダイヤモンドセル装置で、深さ2600kmに相当する圧力(120万気圧)を実現し、ブリッジマナイトを加圧すること。

最下部マントルの鉱物の発見

実験室の立ち上げ以降、大学院生とともにトライアンドエラーをくり返し、2002年、ついにブリッジマナイトに125万気圧をかけることに成功した。予想は「当たり」だった。ブリッジマナイトがべつの結晶へと相転移することが確認されたのだ。この成果(Murakami et al., 2004)は、2004年春に『サイエンス』誌の表紙を飾った。

われわれが発見したマントルの最下部(深さ2600〜2900kmの領域)の主要鉱物はポストペロフスカイトとよばれている。鉱物名の決め方には国際ルールがあり、じつはこの名前は正式名称ではない。正式に命名されるには自然界で発見される必要があるので、もしかすると、正式名称は永久に決まらないかもしれない。

ポストペロフスカイトの結晶構造はよくわかっている(図6)。雲母のような層状構造のために、電気や熱を伝えやすいという特徴をもつこともわかった。ただし、この結晶は圧力を抜くと壊れてしまうので、ダイヤモンドセル装置から取り出して観察することはできない。そのため、色はまだよくわかっていない。

【図】ブリッジマナイトとポストペロフスカイトの結晶構造図6 ブリッジマナイト(a)とポストペロフスカイト(b)の結晶構造。それぞれ下部マントルと最下部マントルの主要鉱物。ブリッジマナイトの結晶構造はペロフスカイト構造という。ポストペロスカイトは層状の構造をもつため、電気や熱をよく伝える(『地球の中身』より)

ここでは詳しい説明はできないが、マントル最下部の主要鉱物について物理的特徴が明らかになったことで、マントル内部の温度分布や、岩石のマントルと金属のコアの相互作用の理解が大きく進んだ。地球科学における高圧実験の重要性がおわかりいただけただろうか。

ダイヤモンドセル装置を用いた高圧実験の成果は、マントルの主要鉱物の合成にとどまらない。たとえば、マントルの下のコアの謎を解くためにも大きな役割を果たしている。われわれの研究室では2010年に、地球中心の圧力(364万気圧)を実現することに成功した。マントルだけでなく、コアに関する大きな発見にも期待してほしい。

参考文献:Murakami, M. et al. (2004): Post-perovskite phase transition in MgSiO3. Science, 304, 855–858.

地球の中身——何があるのか、何が起きているのか

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