2021年にForbes の「30 UNDER 30 JAPAN」を大谷選手らと並んで受賞した発酵・醸造家の山口歩夢さん。前編「大谷翔平選手と並ぶ『30人のイノベーター』26歳のリアル『もやしもん』のすごさ」では、農大入学後に漫画『もやしもん』と出会い、自由に存分に発酵や醸造の実験をしたいと、その準備を着々と進める姿をお届けした。

後編では、そこからインターンをはじめ、「発酵」「醸造」を仕事とし、30人のイノベーターに選出されるまでをお伝えする。漫画『もやしもん』の中にもあるように、日本酒の醸造はかなり手がかかり、とても一人ではできない。また、相応の装置や施設も必要である。
「日本酒を造ってみたくなった」山口さんが、次に始めたこととは。

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分子式で味はわかる

大学3年生になり、いよいよ学内の「酒の仕込み室」が使えるようになった山口さんは、カリキュラムだけでは飽き足らず、「和譲会」サークルの顧問でもある前橋健二先生に頼んで、「仕込み室」の空いている日も使わせてもらうようになった。

口噛み酒こそ、日本酒造りの原点だ?!(c)石川雅之/講談社『もやしもん』1巻より

また、ただ「かもす」だけでなく、大学4年生では味覚を研究テーマにし、日本酒を構成する物質についても研鑽を積んだ。

余談だが、日本酒に含まれる物質の中に、「甘味」も「苦味」も感じさせるα-エチルグルコシドという名の不思議な物質がある。舌には甘味、酸味など五味を感じる受容体があるが、ブドウ糖とアルコールが結合したα-エチルグルコシドは甘味を感じる受容体と苦味の受容体の両方にはまるレアな構造を持つためだ。山口さんは、こうした舌の感覚科学を学んだことで、化学式と構造を見るだけで、物質の味のイメージがつかめるようになったという。
写真提供:山口歩夢
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さらに、21歳のこの頃から、酒への本格的な興味も湧き出した。その味と製法の自由さからもっとも山口さんが惹かれたのはジンだった。ジンは、「ジュニパーベリー」という木の実さえ入れれば、ほかどんな香りづけをしても、「ジン」と名乗れる。このような定義が広く、製法のポテンシャルに広がりを求めるところは、山口さんの研究者としての気質であろう。「多種多様な素材を使って、味わいの幅を広げたい」と、山口さんの酒造りへの熱はますます上がり、複数の酒のベンチャー企業でインターンも始めた。