2022.02.23
# 勉強法

オックスフォード大教授が問う「このアルファベットの意味は?」

名著『知的複眼思考法』に学ぶ(3)

四半世紀もの長きにわたって、若いビジネスパーソンや大学生に読み継がれてきた書籍が、「独学に役立つ名著」として、いま再び注目を集めている。

1996年に刊行された『知的複眼思考法 誰でも持っている想像力のスイッチ』(講談社+α文庫)。著者の苅谷剛彦氏は、東京大学教授を経て、現在はオックスフォード大学教授として教壇に立つ。

そのポイントを紹介する連載の3回目は、「常識」から逃れて、自分で考えるのがいかに難しいかがわかるエピソードをお届けする。

授業の中のトリック

はじめに皆さんを私の大学での授業に招待しましょう。

私の授業ではたいてい、第1回目にビデオを見せることにしています。最近までは、宮崎駿の『おもひでぽろぽろ』を使っていました。

主人公の回想シーンに、小学生のころに、分数どうしの割り算が、どうして割るほうの分数の分母と分子をひっくり返して掛ければ答えが出てくるのかをめぐっての、素朴な疑問がテーマとなるところがあります。このシーンを見た後で、「なぜ、分母と分子をひっくり返せばよいのか」「分数の割り算がわかるということはどういうことか」といった課題を出します。

さあ、皆さんは、答えられますか。少しだけ時間をとって、実際に答えを紙に書いてみてください。

〔photo〕iStock

当の私の授業では、学生たちに解答用紙を与え、そこに答えを書いてもらってから集めます。そして、翌週、私は、学生たちに書いた文章を返却します。用紙の欄外には、赤いボールペンでAとかBとかCとかDとかが書かれています。

読者の皆さんだったら、返された解答用紙にこのような記号があるのを見たらどう思うでしょうか。

学生たちは自分の解答を受け取って、こうした記号があることに気づくと、一瞬驚いた表情をします。そのうち、喜んだり、がっかりした様子を見せる学生も現れます。皆さんが、もし「D」と赤字で書かれた自分の解答用紙を返されたらどう思うでしょうか。

 

全員に用紙を返した後で、私は学生たちにたずねます。

「Aの人は手を上げて……。あまりいませんね」「次にBの人は……」と、手を上げてもらう。たいていCとかDがついていた学生たちは、恥ずかしそうにおずおずしながら手を上げることになります。

さらに「Aの人は、どう思った? Dの人は?」などと質問します。すると、Aがついていた学生たちは、「やあ、思ったよりも、よかったです」とか、「うれしかった」などといったコメントをします。一方、CやDの学生は「あまりよく書けなかったので……」などという「言い訳」をしたりします。

そこで、しばらく間を空けた後で、私は再び学生たち全員に聞くことにしています。

「ところで、その紙に書いてあるAとかBとかCって何だと思う?」

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