2022.01.19
# 北朝鮮

北朝鮮がここにきてミサイルの「駆け込み発射」にまい進する“事情”と“計算”

計6発、それぞれに「意味」がある

「北朝鮮が猛り狂っている」ように見える。新年に入り、5日と11日に極超音速ミサイルと称する飛翔体を発射。14日には短距離弾道ミサイル2発を鉄道軌道上から打ち上げた。17日もやはり、短距離弾道ミサイル2発を発射した。今年に入り、約半月で4回計6発の「乱射」ぶりだ。ただ、詳細に見ていくと、北朝鮮が乱心したわけではなく、それなりの事情と計算が浮かび上がってくる。

最初の2発は「国内世論向け」

まず、5日と11日の発射は、明らかに国内世論向けの発射だった。労働新聞が12日付1面に掲載した7枚の写真がその事情を雄弁に物語っている。そこには、極超音速ミサイルを開発したメンバーと金正恩総書記の記念写真が掲載されていた。北朝鮮にとって「最高指導者との記念写真」は家門の誉れにあたる。脱北者の1人は、「最高指導者との写真が飾ってある家は、保衛部(国家保衛省)の監視が緩くなるし、就職や進学などで特別の配慮もしてもらえた」と語る。

 

労働新聞は記事のなかで「金正恩総書記は、昨年の第8回党大会が示した国防力発展5カ年計画の5大課題の中で最も重要な戦略的意義を持つ極超音速兵器開発部門で大成功を収めたミサイル研究部門の科学者、技術者、活動家と党組織の成果を高く評価し、党中央委員会の名で特別感謝を与えた」と伝えた。

11日の極超音速ミサイルの試射を視察する金正恩氏。労働新聞などが報じた=北朝鮮ウエブサイト「わが民族同士」から

北朝鮮は制裁や新型コロナウイルスの余波で、最重要政策の国家経済発展5カ年計画(2021年~2025年)の目標達成に苦しんでいる。労働新聞は、市民たちに「頑張れば、おまえたちも最高指導者と一緒に写真を撮ってもらえる」と訴えたかったのだろう。5日のミサイル発射は、最高指導者の視察に耐えられるかどうかの「試し撃ち」という性格を帯びていたようだ。

ただ、北朝鮮は12日の報道で「極超音速兵器システムの全般的な技術的特性を最終実証する目的で行われた」と訴えたが、本当に極超音速ミサイルの実戦配備が近いかどうかは疑わしい。米ランド研究所上級アナリストのブルース・ベネット氏は「詳細は不明だが、北朝鮮による極超音速ミサイルの実戦配備が間近いとは思わない。北朝鮮はしばしば、実際よりも高い能力を見せつけようとする。今回も金正恩氏が内外のオーディエンスに兵器の重要性をアピールしたかったのではないか」と語る。

ベネット氏によれば、極超音速ミサイルはマッハ5(音速の約5倍)以上の速度が求められるだけではなく、大気圏内を高速度で飛行するため、振動や摩擦熱に耐える機体が必要になる。

その点でベネット氏は米財務省が12日に発表した独自制裁に注目しているという。同省は、北朝鮮の大量破壊兵器と弾道ミサイルプログラムに関係した北朝鮮国籍者6人とロシア国籍者1人の計7人とロシアの機関1カ所を制裁対象に追加した。ベネット氏は「この制裁は、極超音速技術に関連したものかもしれない」と語る。制裁はロシア政府を対象にしておらず、個人とのやり取りだった可能性がありそうだ。いずれにせよ、北朝鮮は極超音速ミサイルの開発を「最も重要な戦略的意義を持つ」と認めている以上、実験は必要不可欠だったと言える。

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