依存症の脳で起きていること
医学的な意味での依存は、体の依存(身体依存)と、心の依存(精神依存)に分けてとらえることができます。このうち、依存症の本質は心の依存といえます。
身体依存は、脳の働きを担う中枢神経系に直接作用を及ぼす物質(薬物など)の使用をくり返した場合に生じる身体的な変化です。特定の薬物の使用などを続けると、中枢神経がその状態に適応して、十分な効果を得るためにより多く、あるいはより強い作用をもたらすものを求める「耐性」が生じやすくなります。また、急に使用を中止してさまざまな症状が現れる「離脱」も生じやすくなります。
精神依存は、脳の働きが変化することで生じます。依存対象となっているものを手に入れたい、それをしたくてたまらないと渇望し、コントロールがきかなくなっている状態です。
ヒトをはじめ、動物は、有益な刺激により強く反応して、行動に移そうとする報酬系といわれる神経回路が脳内にあります。通常、報酬系のような神経回路は、ほどほどにはたらくようにプログラムされています。

依存症ではこの神経回路が影響を受け、特定の対象を欲してやまない状態をまねくと考えられています。とくに、依存性薬物といわれる薬物では、有益な刺激に対して行動欲求を高める神経伝達物質・ドーパミンの活性を、直接的にも、間接的にも高める働きがあります。
最新診断基準に見る「依存しているもの(依存対象)」
報酬系を手っ取り早く活性化させ、解放感を得る対象としてはどんなものがあるでしょうか?
診断基準として広く用いられている「精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM-5)」や「国際疾病分類(ICD-11 ※2022年発効予定)」では、次のようなものや行為が、依存対象として取り上げられています。
ものへの依存:病的な依存をまねきやすいもの(物質)
- アルコール 酒に含まれるアルコールは中枢神経抑制薬の一種であり、誰でも手にしやすい依存性薬物という認識が必要です。
- 処方薬 医師が処方する薬が依存の対象になることもあります。目立つのは、睡眠薬や抗不安薬の乱用です。これらは、脳の興奮を鎮める中枢神経抑制薬に分類される薬です。
- 市販薬 薬局で買える市販薬は、誰でも買えるだけに乱用が起こりやすく、やめようとしても、目の前にあるのでくり返しやすいという特徴があります。
- ニコチン タバコに含まれるニコチンは、数ある依存性物質のなかでもとくに依存性が高いものの1つです。ニコチン依存症の状態に陥っている人は少なくありません。
- カフェイン コーヒーや茶類、いわゆるエナジードリンクなどにも含まれているカフェインは、中枢神経系を興奮させる作用があります。過剰摂取が起こりやすいのは、カフェインを含む錠剤の乱用です。
- 違法薬物(覚せい剤、大麻、幻覚薬など)
- オピオイド(モルヒネ、ヘロインなどの中枢神経抑制薬)
- 有機溶剤(トルエン、シンナーなど)
対象は自分の行動!? 行為の繰り返しにも注意
報酬系を強化させるものは、物質に限りません。特定の行動・行為のくり返しにも、依存症に共通する面があると考えられます。

くり返してやめられない、ある特定の行動や一連の行動・行為やそのプロセスを、依存的行動といいます。依存をまねきやすい物質をくり返し使用したときと同じような状態になりやすい行為として、以下のようなものがあげられます。
依存をまねきやすい物質のくり返し使用と同じような状態になりやすい行為
- ギャンブル 依存性薬物を使用したときのような脳の変化を生じさせます。趣味・愛好の範囲を超え、コントロールがきかなくなります。
- インターネットゲーム*・ゲーム** とくにインターネットを利用して、他のプレーヤーとともにおこなうゲームへのいちじるしい依存は、「ゲーム障害」という病気としてとらえられるようになってきています。
- 買いものによる浪費、借金***
- 過食・拒食・ダイエット***
- 自傷行為***
- 恋愛・性行為***
- 仕事・運動***
*DSM-5では検討段階 **ICD-11のみ ***DSM、ICDでは取り上げられていないが、依存症との関連が指摘されている行為
こうした対象に依存してしまう原因は、どんなことなのでしょうか?