光の速度を超えて遠ざかる銀河──これから宇宙で起こること

『時間の終わりまで』読みどころ【9】
ブライアン グリーン プロフィール

星々の黄昏──星が消えていく

最初の恒星たちができはじめたのは、エンパイアステートビルの8階、ビッグバンからざっと1億年後ぐらいからのことだった。そして、原材料が残っているかぎりは、今後も新しい恒星が形成され続けるだろう。では、恒星の原材料はどれぐらい持つのだろうか?

恒星を作るために必要な材料のリストは短い。必要なのは、十分に大きな水素ガスの雲だけなのだ。水素ガスの雲があれば重力が働きだし、ガス雲をゆっくりと収縮させて、中心部の温度を上げていき、やがて核融合が始まる。

したがって、もしもあなたが銀河に含まれる水素ガスの量と、恒星を作ることで水素ガスが消費されるペースを知っていれば、恒星がいつまで形成され続けるかを見積もることができる。その計算には、やっかいな点がいくつかあるのだが(銀河内で恒星が形成される速度が、時間とともに変化する場合があることや、恒星が燃焼するにつれて、恒星を構成している水素ガスの一部が銀河に戻って、原材料の備蓄量を増やすことなど)、精密な計算を行った研究者たちは、これから100兆年後には、ほぼすべての銀河で、恒星の形成は終わりに近づいているだろうと結論している。

エンパイアステートビルの14階(編集部注=100兆年後)からさらに階段を上るうちに、そのほかにもうひとつ、目を引く変化が起こるだろう。恒星が消えていくのだ。

恒星の質量が大きくなるにつれ、自分の重さによって潰れやすくなり、中心部の温度はますます上がるだろう。温度が上がれば核融合に拍車がかかり、燃料である原子核の備蓄はすみやかに枯渇する。太陽は100億年ほど明るく燃え続けるが、太陽よりもはるかに大きな質量を持つ恒星は、もっとずっと早く核の燃料を使い果たす。一方、質量が太陽の10分の1ほどしかない軽い恒星は、太陽よりもゆっくりと燃焼するため、寿命ははるかに長い。

【CG】赤色矮星CG by gettyimages

天文学者たちは、太陽の10分の1ほどの質量を持つ恒星に、「赤色矮星」(赤くて小さな星)というわかりやすい名前をつけた。観測によると、この宇宙の恒星のほとんどは赤色矮星であるらしい。赤色矮星は、温度が比較的低く、ゆっくりと着実に水素を燃焼させるため(内部に生じる対流のおかげで燃料の水素がかき混ぜられるため、ほぼすべての水素は中心部で燃焼する)、太陽よりも何千倍も寿命が長く、何兆年ものあいだ輝き続ける。それでも、われわれがエンパイアステートビルの14階にたどり着く頃までには、そんな長生きの赤色矮星ですら、ほぼ燃料切れになっているだろう。

そのため、14階からさらに上に向かうにつれ、銀河は、未来を舞台にしたディストピア映画に出てくる燃え尽きた街のようになるだろう。かつては明るい恒星が無数に輝いていた夜空は、燃えさしが散らばるだけの世界になるのだ。それでも、恒星が及ぼす重力の大きさは質量だけで決まり、明るく輝いているか、暗い燃えさしになっているかは関係がないため、惑星を宿す恒星のほとんどは、まだ惑星たちを引き連れているだろう。

あと1階上るまでは。

(つづく)

(翻訳:青木 薫

*本記事は『時間の終わりまで 物質、生命、心と進化する宇宙』の一部を抜粋したものです

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