光の速度を超えて遠ざかる銀河──これから宇宙で起こること

『時間の終わりまで』読みどころ【9】
ブライアン グリーン プロフィール

1000億年後の宇宙

私がここで遠方の銀河に絞って話をしたのは、近隣の銀河──局部銀河団として知られる、30個ほどの銀河からなる集団──は、われわれの仲間として、まだ近隣にあるだろうからだ。それどころか、エンパイアステートビルの11階にたどり着く頃までには、天の川銀河とアンドロメダ銀河を主な構成要素とする局所銀河団は、ひとつに融合している可能性が高い。

(編集部注:著者は宇宙の時間をエンパイアステートビルの階数になぞらえており、1階を宇宙誕生から10年、2階を10²=100年、3階を10³=1000年、というスケールで表している。ここでいうエンパイアステートビルの11階は、したがって10¹¹=宇宙誕生から1000億年後を指す)

天文学者たちは、その未来の合体銀河を「ミルコメダ」と命名した(「ミルキ」ーウェイとアンドロ「メダ」の合成語。私なら「アンドロミルキー」という名前を推しただろう)。ミルコメダを構成する恒星はみな十分に接近しているため、重力によって互いに引き合い、空間の膨張に負けることなく、ひとつにまとまっているだろう。それでも、遠方の銀河とコンタクトが取れなくなることは大きな損失だ。

NASAによる銀河系とアンドロメダ銀河の衝突合体(Andromeda–Milky Way collision : Milkomeda(ミルコメダ)のコンピュータ・アニメーション  movie by NASA Video(https://youtu.be/fMNlt2FnHDg)

エドウィン・ハッブルが宇宙の膨張に気づいたのは、遠方の銀河を注意深く観測したからだった。ハッブルの発見は、その後100年間に行われた観測により裏づけられ、さらに精度が上がっている。遠方の銀河を観測できなくなるということは、空間の膨張を証明するための、もっとも強力な診断ツールが使えなくなるということだ。そうなれば、ビッグバンと宇宙の進化に関する理解へとわれわれを導いてくれたデータそのものが得られなくなるだろう。

天文学者のアヴィ・ローブは、遠方の銀河の代わりに、ミルコメダから深宇宙にたえず逃げ出していく速度の大きな星たちが、ちょうど川の流れの速さを知るために筏から放り投げられたポップコーンのように、宇宙の膨張を知るための道具になるだろうと言う。しかしそのローブも、どんどん加速する空間膨張のせいで、未来の天文学者が正確な測定をする能力は著しく削がれるだろうということは認める。

【写真】アヴィ・ローブアヴィ・ローブ(Abraham "Avi" Loeb) photo by gettyimages

それがどういうことかを理解するための恰好の例になるのが、宇宙背景放射だ。宇宙を見ていくための重要なガイド役になってくれた宇宙マイクロ波背景放射は、ビッグバンから1兆年後、エンパイアステートビルの12階にたどり着く頃までには、空間の膨張のためにあまりにも引き伸ばされて(専門用語で言えば、赤方偏移が大きくなりすぎて)、検出できなくなっているだろう。

以上の話を聞いて、あなたはこんな疑問を持つかもしれない。宇宙の膨張を示したデータをなんとか保存し、1兆年後の天文学者たちに手渡すことができたとして、彼らはそのデータを信じるだろうか?

未来の天文学者たちは、今から1兆年という時間をかけて磨き上げられた最先端の観測装置を使い、もっとも遠い宇宙を見て、そのあたりは真っ暗闇で何の変化もないことを知るだろう。彼らははるか昔の原始時代──われわれの時代──から伝わる奇妙な結果には取り合わず、全体としての宇宙は静的だという間違った結論を受け入れるだろう。

エントロピーの着実な増大に服従するしかない世界においてさえ、われわれは、測定はつねに改良され、データはつねに増大し、知識はつねに改善される状況に慣れっこになっている。だが、空間の加速が膨張しているとなれば、そんな期待は打ち砕かれる。加速膨張は、重要な情報をあまりにもすみやかにわれわれから遠ざけて、二度と手の届かないところに押しやってしまう。深い真理は、宇宙の地平面の向こうからわれわれの子孫たちに黙って手招きするのかもしれない。

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