光の速度を超えて遠ざかる銀河──これから宇宙で起こること

『時間の終わりまで』読みどころ【9】

世界的ベストセラー『エレガントな宇宙』著者ブライアン・グリーンによる最新作『時間の終わりまで』から本文の一部を紹介するシリーズ第9回。

なぜ物質が生まれ、生命が誕生し、私たちが存在するのか。膨張を続ける「進化する宇宙」は、私たちをどこへ連れてゆくのか。時間の始まりであるビッグバンから、時間の終わりである宇宙の終焉までを壮大なスケールで描き出す本書から、前回は、宇宙のすべてがばらばらになって終焉を迎える「ビッグリップ」を紹介しましたが、今回はもう一つの有力なシナリオを取り上げます。カギは斥力的重力(物質を引き離すマイナスの重力)です。

宇宙の果てにある断崖

もしも斥力的重力がこれ以上強くならず、一定のままなら、ひとまず胸を撫で下ろすことができる。膨張する空間のせいで、すべてがバラバラに飛び散る心配はなくなるからだ。しかし、斥力的重力が、遠方の銀河を猛スピードで後退させることに変わりはなく、長期的には甚大な影響がある。今からおよそ1兆年後には、遠方の銀河の後退速度は光の速度に達し、その後それを超えるだろう。

光の速度を超えるというのは、もっともよく知られたアインシュタインのルールを破っているように思えるかもしれない。しかし、よく調べてみればわかるように、そのルールは揺るがない。

いかなる物体も光の速度を超えることはできないというアインシュタインの言明は、空間の「中で」動いている物体にしか当てはまらない。そして銀河は、空間の中で運動しているのではない。銀河にロケットエンジンがついていて、空間の中を飛んでいくわけではないのだ。

白い絵の具が点々とついた黒いスパンデックスの布を引き伸ばせば、白い絵の具の点々は互いに離れていくように、銀河は普通、空間という織物にくっついている。銀河が互いに遠ざかるのは、空間が膨張するからなのだ。銀河間の距離が大きければ大きいほど、両者のあいだには膨張する大きな空間が広がっているため、両者はより大きなスピードで相手から遠ざかる。アインシュタインの法則は、そのような後退速度には制限を課さないのだ。

【CG】光の速度で動く銀河CG by gettyimages

それにもかかわらず、光の速度という制限速度が、とてつもなく重要であることに変わりはない。なぜなら、銀河から出た光は、たしかに空間の「中を」進むからだ。そして、川の流れよりも遅くしか進めないカヤックで上流に向かおうとしても無駄なのと同じく、光の速度よりも大きな速度で後退する銀河から出た光がわれわれに届くことはない。光の速度で空間の中を進む光は、光の速度より大きな速度で拡大する地球までの距離に打ち勝つことはできないのだ。

その結果として、未来の天文学者たちが近隣の星には目もくれず、もっとも遠い深宇宙に望遠鏡の焦点を合わせたとすれば、彼らが見るのは漆黒の闇だけだろう。遠方の銀河は、天文学者たちが「宇宙の地平面」と呼ぶ一線を越えているだろう。まるで、宇宙の果てにある断崖から落ちてしまったかのように。

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