ビル・ゲイツも賞賛…コロナワクチン開発の立役者シャヒンCEOの「驚くべき先見性」

オミクロン株が猛威を振るい、新型コロナワクチンの3回目接種への関心が高まる中、注目のノンフィクション『mRNAワクチンの衝撃』(柴田さとみ・山田文・山田美明訳、早川書房)が刊行された。

わずか11カ月という記録破りのスピードでファイザーのワクチン開発に成功した、
ドイツの小さなバイオベンチャー企業・ビオンテック社
。その創業者であるウール・シャヒンCEOには今、研究者としての「先見性」、そして経営者としての「決断力」に対し、ビル・ゲイツやアンゲラ・メルケルはじめ世界のトップから賞賛と注目が集まっている。

本書の一部を抜粋・編集し、2020年1月下旬、まだ世界で新型コロナの感染者数が1000人にも満たないタイミングで8つのワクチン候補を設計するという、驚異的なビジョンと実行力を彼が発揮するまでのエピソードを紹介する。

 

武漢で何かが起きている

ウール(・シャヒンCEO)はインターネットブラウザを開くと、ブックマークしたウェブサイトをきちょうめんに一つずつ巡回していった。その日は1月24日で、ドイツでは2020年がゆっくりと始まりつつあった。

ウールの第二の故郷であるマインツの地元メディアは、小学生の環境保護活動によって交通網が数キロメートルにわたって封鎖された話題を伝えている。ドイツで最も権威ある雑誌の一つとされる《シュピーゲル》誌のウェブサイトでは、ドイツにおけるギャングスタ・ラップの流行とその疑わしい倫理観についての記事がトップを飾っていた。

同誌のその週のデジタル版には、アメリカ民主党の内紛がドナルド・トランプ再選の実質的な要因になるのではないかとする記事や、アマゾン創始者ジェフ・ベゾス氏の携帯電話ハッキングにも関与したとされる、サウジアラビア王国によるサイバー戦争を取り上げた分析記事が並んでいる。

そんななか、サイエンス欄の片隅にひっそりと掲載されていたのが、中国の大都市、武漢からのレポートだった。同市で新型の呼吸器疾患が流行しているというものだ。

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