産む産まないは、誰もが持っていい権利

そして、今回のリンさんのケースで着目したい問題がもうひとつある。それは、海外からの技能実習生の出産に関する権利だ。WHO(世界保健機関)では、「子どもを産むか産まないか、産むならどの間隔で何人産むか」を自分で決める権利(リプロダクティブ・ヘルス&ライツ、性と生殖に関する健康と権利とも言う)は「誰にもある権利」と認めている。しかし、リンさんの置かれた環境は、この権利を剥奪し軽視する行為にあたる。

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しかし残念ながらいまだに、技能実習生の契約書には「強制送還になる禁止事項」「妊娠」の表記が残っていたり、妊娠した技能実習生の女性が解雇、強制帰国させられたり、中絶か帰国かを迫られたりするケースが絶えない。これは明らかなリプロダクティブ・ヘルス&ライツへの侵害だ。

厚労省、入国管理局、外国人技能実習機構も「妊娠等を理由にして技能実習生を不利益に扱ってはならない」という勧告は何度も出すほど深刻な状況であるが、一向に改善されていない

この現実があったことで、リンさんは周囲に妊娠したことを話せなかった。もし妊娠しても強制帰国させられないことがはっきりし、産むにせよ、中絶するにせよあらゆる選択肢が保障されていれば、周囲に相談できていたかもしれない。結果として、死産自体が起きずに済んだかもしれないのだ。

さらに、これだけ「妊娠」が「悪」とされるなら、本人が望めば確実な避妊、安全な中絶が用意されても良さそうなものだが、そういうわけでもない。

ちなみに、避妊に関して言えば、ベトナムでは法律によって1989年より避妊は無料で提供すると定められている。そして2019年の国連の報告書を見る限り、ベトナムでは生殖年齢(15-49歳)にある女性のうち、27%がIUD(子宮内避妊具)、10.5%がピル、8.3%がコンドーム、1%が注射、0.2%がインプラントを使用している。

一方日本では、コンドームはアクセスが比較的容易だとしても、注射、インプラントでの避妊は認可がないためできない。また、避妊目的のものは保険適用にならないため、IUDなら1回の挿入に3万円は下らないし、ピルも毎月2000円程度。どちらも病院に行く必要があり、言語的ハードルも生まれることを考慮すれば、確実な避妊へのハードルは非常に高いことがわかる。

ちなみに、コンドームのみでの避妊をした女性が100人いた場合、コンドームの失敗や破損も考慮すれば約13人が妊娠すると言われているが、避妊に失敗した際、緊急的になるべく早く、遅くとも72時間以内に服用することで高い確率で妊娠を防ぐことのできる緊急避妊薬は、日本では医師による処方箋が必要で、値段も6000円から2万円程度と高額だ。一方、ベトナムでは処方箋の必要なく薬局で200円以下で購入できるそうだ。

また、ベトナムでは薬剤での中絶が認められており、日頃の避妊と同じく法律で無料と定められている。一方日本では、中絶は10~20万円ほどかかる。しかも薬剤での中絶はまだ認可がないため、手術しか選択できない。自分の国なら薬剤で済むはずの中絶が、異国の地で全身麻酔さえするかもしれない手術、しかも非常に高額となれば、それが極めて困難であることは想像に難くない。

避妊や妊娠に関する選択肢が日本は少なく、選択できても他国に比べ、高額で入手も簡単でないものも多い。写真はイメージです。photo/iStock

加えて言えば、中絶か帰国かを選ばされる時点で、その中絶が本当に本人が望んだ選択になり得るのかにも、大きな疑問が残る。ちなみに同じく技能実習生として来日し妊娠したベトナム国籍のある技能実習生は、強制帰国を恐れ、取り寄せた中絶薬を服用し中絶を試みたところ、「堕胎罪」によって逮捕されたという事例もある。