「孤立出産」は誰もがあり得ることなのに

まずひとつめは、本件が有罪となれば、今後、国籍問わず、孤立出産に伴う死産=犯罪、とみなされかねないということだ。たとえ事前に産婦人科などの受診歴があったとしても、自宅で突然流産、死産というケースはないとは言い切れない。その場合もケースによっては同様にみなされてしまうということになる。

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実際これまでにも国内で、孤立出産によって不起訴ではあったが、逮捕されている事例がある。

2021年9月21日未明、香川に住む日本人女性は、妊娠に気づかないまま、妊娠から4カ月から5カ月ほどだった頃、自宅で流産をした。その時、近所のかかりつけ医は休診日だった。金銭的な不安から他の医療機関にいくことをためらい、かかりつけの病院が再開したら行こうと夫婦で相談して、流産した赤ちゃんの遺体は腐敗を防ぐため、一時的に冷蔵庫に保管した。

祝日が明けた24日の朝、夫は長男を保育園に預ける際、園に妻が流産したことを伝えた。その日の午前中には自治体から夫に事実確認の電話があり、夫は事情を説明。職員からは「流産から数日経っていることもあり、どのような対応が必要か役所だけでは分からないので、関係機関と相談する」と伝えられ電話は切れた。その後来たのは警察で、そのまま「死体遺棄」の容疑で逮捕されたのである。夫婦は不起訴になったものの、12日間勾留された上、誹謗中傷を受けた夫婦は職を失った。

他にも、2020年12月、「赤ちゃんポスト」を運営する熊本市の慈恵病院に「死産したがどうしたらいいかわからない」とメールで相談した20代の女性は、病院が警察に「保護」を求めたにも関わらず、逮捕されてしまった。

写真はイメージです。photo/iStock

これらはいずれも不起訴だったが、リンさんのケースが有罪となれば、今後似た事例において、女性はもちろん周囲にいた家族なども、起訴、有罪判決になってしまうこともありうる。これはあまりに不条理だと私は思う。

というのも、私は最近、「内密出産」や「赤ちゃんポスト」などに関することを調べていてある記述が気になったからだ。ドイツでは、「内密出産」や「赤ちゃんポスト」の両方の制度が法制化されている。しかし、背景にかかわらず、匿名出産や赤ちゃんポストを利用する女性たちは「パニック的な不安」を抱き、自分の状況や問題を適切に言葉にすることが難しいケースが多いことがわかっているという。

実際、逮捕された香川の夫婦も「モラルというか、倫理的に外れてるんかなって言われたら、確かにそうかもしれんけども、その時の状況で言ったらもう手詰まりだったから。役場に電話しても分からへん。じゃあ本当にどうしたらいいのって話で……。あれよあれよという間に逮捕されて、12日間勾留された」と当時を振り返っている。

リンさんも同様で、「(死産した当日は)どうしたらいいかわからなかった」と述べている。

自然流産の頻度は全妊娠の10~15%、すなわち6~7人に1人程度の確率で起こり、決して珍しくない。中にはたった一人その瞬間を迎える人もいるだろう。医療設備が整った環境下で出産をしても痛みや不安は尽きないのに、突然だったり、たった一人でそのときを迎えた女性たちの不安や苦しみは計り知れない。彼女たちが、極度の疲労困憊とパニック、我が子を失った悲しみの中、相談できるまでの繋ぎとしてなんとか行った精一杯の行為が、「死者に対する追悼・敬虔の感情という社会秩序」を乱すといった非常に曖昧な理由から、「死体遺棄」とされてしまって、本当に良いのだろうか?

たった一人で「孤立出産」せざるを得なかった女性に対してすべきことは、逮捕ではなくむしろケアであり、一層の社会とのつながりなのではと私は思う。