2022.01.23
# ライフ

『サザエさん』で、「させていただく」という表現が使われていない理由

当時は別の表現がメジャーだった
椎名 美智 プロフィール

この表を見るかぎり、ブレイクの兆しもありません。もう一つは、磯野家が元々東京の人ではないことと関係しています。「させていただく」は関西起源で、昭和30年代に東京でも使われるようになったという説があります。

ところが文学作品を見ると、明治・大正時代から東京でも「山の手ことば」として普通に使われていたことがわかります(*1)。磯野家の人たちは戦後に東京に引っ越してきているし、どちらかというと下町的な日常生活を送っているので、二重の意味で「させていただく」が使われるような改まったコミュニケーションとは無縁です。

それも「させていただく」が使われない理由の一つではないかと思われます。いずれにせよ、この調査からは『サザエさん』が「させていただく」ブレイク前のお話だったことがわかります。

(*1)松本修(2008)「東京における『させていただく』」『國文学』92、355–367頁、関西大学国文学会。
 

「~てくださる」の方がメジャーだった?

しかし、「てくださる」の側からこの表を見ると、まったく違う景色が見えてきます。この時代には、じつは「てくださる」という補助動詞が偶然ではなく(「有意に」といいます)多く使用されているという統計結果が出ています。今から2世代前は、「てくださる」の全盛期だったのです。

SPONSORED