改姓したくないのは「アイデンティティの問題」

本連載ではこれまで、「なんでそんなに姓にこだわるの?」という読者の疑問の声をSNSでよく目にしてきた。実際、京子さんも周囲の人によく聞かれるという。そのときに答えるのが、「大学院時代の論文歴やこれまでの受賞歴に紐付いた生来姓を失いたくないから」という理由。ただ、それはキャリアというよりも自分自身のアイデンティティの問題なのだという。これは、先ほどの晴人さんの「自己喪失感」の話とも重なる。

「キャリアで使ってきた姓を失うことに“機会的な損失”がありますよね。でもそれ以上に、私は友人たちに『只野ちゃん』(仮名)と姓で呼ばれていて、ほかの名前で呼ばれたことがないんです。私の姓は私のアイデンティティ。結婚した友達がFacebookで名前を変えて一見誰か分からなくなっていることがありますよね? 私はそれがイヤなんです」(京子さん)

晴人さんも改姓したくない理由をこう説明する。

「僕の姓はすごく珍しくて、それがきっかけで覚えてもらったり、話が弾んだりするので変えたくないんです。京子と同じく、僕の場合もアイデンティティを喪失したくない、ということですね」(晴人さん)

〔PHOTO〕iStock
-AD-

また、アイデンティティの問題において、京子さんをモヤモヤさせていることがある。それは会社の飲み会やなにかで、実に多くの人が「本当の名前は何?」と聞いてくることだ。

「“本当の名前”ってどういう意味なんですかね? 私にとって本当の名前は生まれてきた姓と名前。自分のアイデンティティのために職場で旧姓使用しているのに、『本当の名前が何?』と聞いてくる人がいるなんて想像もしませんでした」(京子さん)

晴人さんが会社で旧姓使用したときは、そんなこと一度も聞かれたことがないという。結婚改姓は男女平等であるはずだが、既婚者女性の9割強が夫の姓を名乗る現実をここに見る。