このときのことを、晴人さんは振り返る。

「父が働き、母が専業主婦という家庭で育った僕は、それが家族のカタチだという刷り込みがありました。『女性に働いてほしくない』『妻が夫の姓に変わるべし』という強い思いはなく、単にそれが普通で、夫婦には役割分業があると思っていたんです

〔PHOTO〕iStock

親のあり方が「普通」だと思っていた晴人さんは、伝統的ジェンダー規範を意識したことがなかったのだ。

とはいえ、2人はこのときまだ大学4年生で、結婚はまだ現実的ではなかった。いずれこのトピックは2人のなかで大きな悩みになるだろうと予感しつつも、そのときは曖昧なまま議論は終わってしまったという。

その後、2人とも大学院に進学し、卒業後に就職して働くこと1年半。京子さんと晴人さんはお互いの両親に紹介しあい、翌年、交際4年目にして結婚することになった。

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お互いの「姓を変えたくない」を大切にする

どんな家庭を築きたいか、という話になったとき、晴人さんにある変化が起きていた。家庭の中での役割分業や姓について、男女で平等であるべきという考えに変わっていた。「結婚後も姓を変えたくない」「結婚・出産後も働きたい」という京子さんの気持ちが理解できるようになったからだ。

「僕も社会人になり働いてみると、その楽しさと大変さの両方が分かりました。働くことの喜びを彼女から奪いたくない。同時に、この厳しい社会で子どもを育てるにはダブルインカムのほうが理にかなっていると思ったんです」(晴人さん)

そんな晴人さんの態度に驚いた、と京子さん。

「きっと姓のことでまた喧嘩になるだろうと思っていたので、彼の意見が変わっていたことにびっくりしましたが、本当に嬉しかった。私の気持ちを対等に尊重してくれるから、私も彼の気持ちを尊重しなくちゃいけない。だから、お互いが姓を変えたくないという気持ちを大切にしようと思いました」(京子さん)

どちらも姓を変えない。これを法律婚で実現するには、現行法では難しい。では、どちらかが譲歩すべきなのか――。議論は平行線をたどることとなった。