新型コロナの飲み薬「モルヌピラビル」が、「救世主」とは言い切れない理由

誰に、どんなふうに使われるのか
村上 和巳 プロフィール

あくまで「暫定王者」

こうした際に臨床試験結果から薬同士の効果を比較する参考指標として、ある治療の効果が患者1人に現れるまでに何人に治療する必要があるのかを表す「治療必要数(NNT)」がある。NNTの数字が小さいほど有効性が高い治療となる。

ここではNNTの計算式の詳細は省くが、実際に計算すると、ラゲブリオが34.5、ロナプリーブが45.5、ゼビュディが20.0、パクスロビドが16.1。つまりラゲブリオの有効性は4種類の中で3番目となる。

もっともそれぞれの薬は一長一短がある。まず、ロナプリーブ、ゼビュディは注射薬であり、飲み薬であるラゲブリオやパクスロビドよりはやや使いにくい。

また、デルタ株が流行した第5波である程度有効だったと言われるロナプリーブは、現在主流となりつつあるオミクロン株への効果はかなり低下するため、前述の「新型コロナウイルス感染症 診療の手引き」の最新版では、オミクロン株の感染者に使わないことを推奨している。

もちろんデルタ株ならば使えるが、現状ではある患者の感染ががPCR検査などでほぼ確定した段階から、感染したウイルスがデルタ株かオミクロン株かを確定するためにはさらに1~2日を要する。そしてロナプリーブもまた発症から7日以内の投与を原則としている。このためウイルス株の確定のための時間のロスを考えると、現在はもうほぼ使えない状態と言ってもいい。

 

最も効果が高いパクスロビドは、すでにHIV感染症でも使用されているリトナビルと、別の抗ウイルス薬の2種類の配合剤だが、リトナビルは前述の相互作用が起きる薬が多く、主要な高血圧薬や心臓病薬、抗精神病薬も含め100種類前後の薬が併用禁止か併用時に厳重な注意が必要となっている。

こうした併用禁止や併用要注意の薬の中には前述の重症化リスク因子に含まれる病気で服用される薬もかなり含まれ、実はかなり使いにくいのが現実。

また、ラゲブリオは効果面もさることながら、飲み薬とはいえ長さ2cm超、直径1cm弱の大きなカプセル剤のため、食べ物の飲み下し能力が低下した高齢者ではやや使いにくい可能性もある。

こうした大きなカプセル剤を服用する場合には口の中にカプセルと水を含んでから顔を下向きにして飲み込むと比較的楽に飲める。ちなみにカプセルから中身を取り出すのは薬の成分の安定性への影響が不明のため禁止されている。

これらを総合的に判断すると、軽症、中等症Iで重症化リスクのある患者で効果を優先するならば、パクスロビド、ゼビュディが優先的に使われ、ラゲブリオはこの2種類が使えない残る一部の患者しか対象にならない可能性がある。とはいえ、現時点で相互作用が少ないのは最大のメリットで一定の存在価値はあるだろう。

いずにせよ「新型コロナの軽症者に使える初めての飲み薬」という触れ込みは、まるで「王者」の風格のようにも聞こえるが、それはあくまで「暫定王者」であることは覚えておいた方が良いだろう。

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