「選んだのは私」という事実の重み

助産師の遠藤さんは、出生前検査や人工妊娠中絶など、自分の判断がそこにかかわる死は自然死よりもグリーフが深刻なものになる可能性が高いという。

「大竹さんは検査で赤ちゃんを亡くしましたが、検査後に中絶をしたお母さんもいます。その方たちがよく言うのは、こんなつらい日々が待っているなんて、検査を受ける時には全然考えなかったということです。何かの形で選択があった喪失は、『自分が選んだんだ』というまぎれもない事実が、そこに残るんです」

大竹さんは、人工妊娠中絶をしたわけでない。でも、流産を引き起こす可能性がある羊水検査を選んだのは自分自身だ。

さらに大竹さんは、その選択のありようについて、今も悔いている。命がかかわることなのに「高齢妊娠だから検査を受けるのは当然」と思っていたことや、押し流されるようにして羊水検査へ進んでしまったことを。

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出生前診断とは何か

日本では、今から9年前になる2013年、大竹さんが受けたクアトロ検査よりはるかに偽陽性率が低い血液検査「NIPT」が開始された。それを機に、出生前診断は前後のカウンセリングが大事だということが盛んに言われるようになってきた。

たとえば、日本赤十字社医療センターでは、診察にした妊婦さんが出生前検査を検討したいと話したら、あわただしい妊婦健診の中で話すのではなく、「出生前相談外来」という専用の外来を予約してもらう。

同病院第二産婦人科部長・笠井靖代医師は言う。
「高年齢の出産では染色体疾患の確率が上がることを知れば、誰でも不安になります。病気がなければいいな、と願うのは親として自然な気持ちでしょう。しかし出生前診断は、高年齢だから受けなければいけない検査ではありません。最終的には、その子を産むか、あるいは妊娠継続をあきらめるかに深く関わる可能性がある検査です」

そして、検査を受けるかどうかは医師が決めない。結果として示された数値についても、その値が高いか低いかを決めるのは自分だという。
「母体血清マーカー検査(クアトロテスト)には確かに基準値がありますが、それはひとつの目安に過ぎません。10分の1でも羊水検査を受けないという方もいますし、1000分の1でも受けたいという方もいます。私たちはその選択を尊重しますし、そもそも母体血清マーカー検査を受ける前に、羊水検査に進んだら流産のリスクがあるんだということをしっかりと伝え、それでも受けたいのかどうかを考えていただきます」

さらに「羊水検査は300人に1例くらいの割合で流産が起こると言われていて、確実に避ける方法はありません。自宅で何か異変を感じた妊婦さんが電話をかけてきたら、私たちはすぐに受診をしてもらいますけれど、この時期の赤ちゃんは、まだ子宮外では生きていけません。ひとたび感染が起きて流産が進み出してしまったら、助けることは難しいのが現実なのです」と笠井医師は言う。

日赤医療センターでは、妊婦さんが衝撃を感じるかもしれないことを、いきなり電話で伝えたりもしない。検査の結果が深刻なものだった場合は、出生前検査相談外来で妊婦さんにそれを伝えたあと、すぐ帰すのではなく、しばらく助産師さんと話す場を設けることが多いそうだ。少しでも気持ちを落ち着けてもらうための心配りだ。

出生前検査では、検査施設選びは、重要だ。