2021年に「出生前検査」と呼称を変えた「出生前診断」。妊婦健診で行われる「超音波検査」は胎児の一般的な健康状態をチェックするものだが、「出生前検査」はさらに染色体疾患の可能性などを検査するものだ。検査には妊娠10週以降に行うことができるNIPTや羊水検査などいくつかの種類があり、特に高齢出産の場合は染色体疾患の可能性が高くなるため、中には「受けるのが当然」と感じている人もいる。

しかし、検査にはリスクもある。とても繊細なことゆえに、心が壊れてしまいそうになる場面もある。だからこそ細心の注意を払い、どこでどんな検査を受ける人にも、確実に検査前後の心のケアがおこなわれる必要がある。

出産ジャーナリストで、出生前診断の国の専門委員会でも委員を務める河合蘭さんは連載「出生前診断と母たち」で様々な選択をせまられた方々に取材をしてきた。今回は、羊水検査の後に感染を起こし、流産するという悲しいできごとを体験してしまった女性が、お話を聞かせてくださった。検査は何のためにあるのか、検査に際し、どのような環境が重要なのか。国の問題として、考える必要がある。

編集部・著者注*この記事はご本人が保存している書類とご本人の記憶に基づいて13年前のできごとを書いています。また、出生前検査は施設によって違いがあり、ここでお伝えする医療施設の対応は一般的な対応とは言えない可能性があります。よってこの記事は羊水検査後の標準的な流れを知るためのものではありませんので、そのことをご了承の上でお読みください。
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流産や死産を経験した女性たちへのケアを

出生数に加わることなく亡くなった命に、戸籍はない。
しかし、そのすべて合わせると日本全体では年間3万人を超えるだろう。妊娠初期の流産は妊娠全体の1割に起きる。死産届の届け出義務がある数値を見ると2019年には妊娠12週以降の死亡「死産」は自然死産が8,997人、そして人工死産(人工妊娠中絶)は10,457人だった。

厚生労働省は2021年の5月、全国の自治体に、流産や死産を経験した女性たちのために適切な施策を講じるよう要請する通達を出した。もともと母子保健法に書かれている「妊産婦」という言葉には、流産・死産をした人も含まれている。これにともない、流産・死産をした母親たちの悲しみを放置しないための取り組みが全国的に始まった。

私は、その通知後まもなく自治体に向けて開かれた厚労省主催の説明会に参加したが、その時、自分自身が赤ちゃんの死を経験したひとりの女性が涙ながらに経験を語っていた。それが、周産期グリーフケアはちどりプロジェクト共同代表の大竹麻美(おおたけ・まみ)さんだった。

「グリーフ」とは、大切な人・大切な何かを失ない、またそのことによって希望や自信などさまざまなものも失う悲しみの経験全体を指す。大竹さんは、流産、死産、人工死産をした母親たちのセルフヘルプグループで活動し、その経験からはちどりプロジェクトを立ち上げ全国的なアンケート調査もおこなっている。

サロンに通う女性たちと大竹さん。サロンの夏祭りにて 写真提供/大竹麻美

時は流れても、大竹さんの中で、あの日への思いはまだそんなに変わっていない。大竹さんの赤ちゃんが亡くなったのは2008年のことで、それから、もう13年の歳月が流れているのに。

大竹さんの赤ちゃんが亡くなったのは妊娠17週の時で、染色体疾患がわかる検査――羊水検査を受けてから3日目のことだった。
羊水を採取する羊水検査は、お腹から子宮内に針が入るため0.3%程度の確率で赤ちゃんが流産になると言われている。

「なぜ、もう少し、リスクについて考えなかったのかと……」

大竹さんは、ダウン症がある可能性を調べる血液検査のあと、よく考えずに羊水検査を受けてしまった後悔に今も苦しんでいた。大竹さんの死産の悲しみの中に、そんな気持ちも混ざっていることを知り、私は驚いた。

大竹さんに、13年前の羊水検査の記憶をお聞きした。