すべてがバラバラに!? 宇宙終焉のシナリオ「ビッグリップ」とは何か

『時間の終わりまで』読みどころ【8】

世界的ベストセラー『エレガントな宇宙』著者ブライアン・グリーンによる新作『時間の終わりまで』から本文の一部を紹介するシリーズ第8回。

なぜ物質が生まれ、生命が誕生し、私たちが存在するのか。膨張を続ける「進化する宇宙」は、私たちをどこへ連れてゆくのか。時間の始まりであるビッグバンから、時間の終わりである宇宙の終焉までを壮大なスケールで描き出す本書から、今回は、宇宙終焉のシナリオのひとつ「ビッグリップ」の解説を取り上げます。

ビッグリップ

リンゴを真上に放り上げれば、たゆまず働く重力のために、リンゴの上向き速度はどんどん小さくなる。これは重力作用を説明するためによく使われる例だが、そこには宇宙論的に深い意味がある。

1920年代にエドウィン・ハッブルによる観測が行われて以来、われわれは宇宙空間が膨張していることを知っている。銀河たちは、互いに急速に遠ざかっているのだ。しかし、放り上げられたリンゴと同じく、それぞれの銀河が他のすべての銀河に及ぼす重力は、宇宙全体が飛び散る速度を遅くするように働くはずだ。宇宙空間は膨張しているが、その速度はだんだん小さくなっているに違いない。1990年代には、この予想を証明しようと、天文学者のふたつのチームが、その減速率を測定する仕事に取りかかった。

10年ほど研究を続けたのち、その結果が発表された──そして科学界を仰天させた。予想は間違いだったのだ。遠方の超新星は、宇宙のいたるところにある測定可能な強い光源だが、それらを地道に観測した結果、宇宙の膨張は減速していないことがわかったのである。

宇宙の膨張は加速している。そしてその加速は、最近になってギアを高いほうに入れ替えたというようなものではなかった。驚きのあまり椅子から転がり落ちた研究者たちの目の前に突きつけられたのは、宇宙は過去50億年にわたって、一貫して膨張の速度を上げてきたことを示す、天文学の観測結果だった。

【CG】宇宙の膨張は加速していたphoto by gettyimages

膨張速度は減速しているはずだと多くの人が思い込んでいたのは、それが当たり前だと思っていたからだ。宇宙空間の膨張が加速しているなどというのは、リンゴをそっと放り上げれば、リンゴはわれわれの手を離れるなり、どんどん速度を上げて天に昇っていくというのと同じぐらい馬鹿げたことに思われたのだ。

もしもあなたがそんなおかしな出来事を目撃すれば、リンゴを上向きに加速するような、それまで見逃されていた隠れた力を探すだろう。それと同じく、宇宙膨張が加速しているという圧倒的な証拠がデータから引き出されると、研究者たちは床から起き上がり、何本ものチョークを握って原因を探しはじめた。

もっとも有力な説明は、第3章でインフレーション宇宙論の話をしたときに出会った、アインシュタインの一般相対性理論の中核となる重要な性質に訴えるものだ。

ニュートンとアインシュタインのどちらの重力理論でも、惑星や恒星のような物質の塊はおなじみの引力的重力を及ぼすが、アインシュタインのアプローチでは、重力の振る舞いのレパートリーが増える。もしも宇宙のある領域に物質が存在せず、その領域が均質なエネルギーに満たされていれば、重力は斥力になるのだった。

インフレーション理論では、エキゾチックな場(インフラトン場)がそのエネルギーを担い、強力な斥力がビッグバンをスタートさせたと考える。それは140億年ほども前の出来事だが、現在観測されている空間の加速膨張を説明するためにも、それと似たアプローチが使える。

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