脳を支配され「最高に気持ちいい安楽死」を遂げられる未来は是か否か

『人生の成就』出版記念イベントより

人生100年時代、あなたは長生きすることにワクワクするだろうか? そもそもお金は続くのか? 健康に生きることができるのか? 気になることが多々あるはずだ。家族の介護で疲弊している人もいることだろう。

では、もし、安楽死が解禁されたらどうするか? しかも、最高に気持ちいい安楽死だったとしたら? それなら、本人も家族も納得がいくのでは? 最後の親孝行にもなり、罪悪感も解消されるのではないか?

人生の成就』(中西出版)はそんな近未来社会を描いた小説だ。札幌の小さな出版社から発表された本なのだが、各紙で書評が掲載され話題となっている。

著者の澤田展人氏は長年、北海道で高校教師として働き、定年退職後は作家として活動し、第52回北海道新聞文学賞を受賞している。その澤田氏の教え子である働き方評論家・常見陽平氏と、高校時代の同級生で元朝日新聞東京本社編集局長のジャーナリスト・外岡秀俊氏が、昨年10月10日、札幌・紀伊国屋書店にて開催した出版記念トークイベントの模様をお届けするーー。

(外岡秀俊さんは2021年12月23日、心不全のため逝去されました。謹んでお悔やみ申し上げます。氏の遺稿となるであろう本記事をお別れの言葉にかえて。)

良い夢を見ながら楽に死ぬことができたら

澤田: 私は実は、この小説を書くちょっと前に、精神的にスランプで。自分は何をしても駄目なんじゃないか、楽に死ぬことができたらいいんじゃないか。なんて思ったりするマイナス思考の時がありました。

でも、楽に死ねるって言ってもそんな簡単なものではないですよね。その時に、誰かがこう自分の脳に仕掛けをしてくれて、とても良い夢を見ながら、ああ良い気持ちだなと思って死ねたら、楽でハッピーだなと思ったんですよ。この小説の種はそこにあるんです。

そのハッピーであるかどうかということを、ずっと自分の中で考えるに従って、誰かに脳を操作されて人生を終えるということを対象化してみた時に、死ぬ本人はすごくハッピーであるかもしれないけれど、人生の在り方っていうのはどうなのだろう……。そういう風に視点を変えながら書いていくうちに、だんだん構想が広がりまして。自分の頭を操作するすごい奴と、弱々しい大したことない自分とがどういう風に戦うか、そこが最初に頭にありました。

未来に時代を設定したんですが、人間が操作されて生きるという在り方には、今の私たちが生きている時代と共通する問題が実にたくさんある。何かいっぱい詰め込み過ぎたかなとは思ったんですが、でもこれは今自分がものを考えていることの達成点なので。この詰め込み過ぎた小説を、皆さんにどう読んでもらえるか試してみたいなと思って執筆を終えました。

外岡: 常見先生は、澤田先生が高校で教えていた時の教え子でいらっしゃいます。92年頃ですか?

常見: そうです。私は1974年生まれ、松井秀喜世代です。澤田先生の授業を受けていたのは92年、高校3年生の時で、政治経済の先生だったんですね。先生は授業の中で「政経フォーラム」という、今でいうとミニコミ誌のようなフリーペーパーのようなものをつくっていて。ちょうどPKOの議論が盛り上がっていたその頃、自衛隊の海外派遣について、賛否の意見などを生徒から匿名で募って議論しました。

本当に教育熱心で。ご本人も勉強を続けていて。直接教わったのは1年間だけだったんですけれど、非常に多くのことを教わったなという感じがします。

澤田先生の新作が、北海道から、札幌から出てきた、しかも、一切ネットに載らずに出てきたというのがいいなと思います。書きためたブログからデビュー、Noteからデビュー、という今時のデビューの仕方ではなく、地道に続けている文芸誌から出てきたのがナイスです。

奇跡の作品、今、読まれるべき作品です。コロナ前から書かれていた作品であることもポイントです。コロナの本質というのは、あらゆる意味で人と人との距離を離すことです。コロナで世の中が大きく変わったのではなく、もともとあった変化に加速をつけました。

 

この1年半くらいはネット上も、コロナ関連などで、荒れに荒れています。考えの違いを認識し、他人と距離をおいた人もいることでしょう。この小説は、管理社会、監視社会とどう向き合うか、命の選別、少子化、高齢化という問題を鋭く抉っているという点が秀逸です。

介護の話に関しては、ご自身の介護体験や闘病生活も反映されているのかと。性に関する話も、これは人間らしさをどう保つかという話かと。最終的に、痛み、人間の肉体に解を求める点は慧眼そのものです。

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