新型コロナショックが引き起こす「長期的危機」の可能性

「パニック」よりも「長引く停滞」に
宮崎 成人 プロフィール

ドルへの資金回帰

金融緩和が強力なほど、そして長期にわたるほど、そこから円滑に「正常化」していくのは難しくなります。その実例が、2013年夏のいわゆる「テーパータントラム」です。その年5月の議会証言でバーナンキFRB議長は、このまま国際金融状況が改善したら今後数回の政策会合において債券購入ペースの減速(テーパー)に向かえるかもしれない、と発言します。それまで超低金利で調達したドルを海外投資に振り向けていた投資家は、急速にドルに回帰します。その結果、経常収支赤字が大きい等の理由で脆弱と思われたブラジル、インド、インドネシア、南アフリカ、トルコの5ヵ国の通貨が大きく下落しました。

現在米国では、足下の物価上昇が賃金上昇につながって、インフレが定着するリスクがあります。市場では2022年中にFRBが複数回利上げをするだろうと予想していますが、利上げが遅れると、後々より大規模な引き締めを強いられることになるので、一般的には、遅れるよりは早めの「正常化」の方が望ましいと言えます。そうなると2013年と同様、新興市場国や発展途上国の通貨に下落圧力がかかるのは避けられないでしょう。

過度な為替下落を嫌う各国が利上げを迫られると、財政の維持可能性や金融機関の健全性に影響が及びますし、ドル建ての債務を負っている国々は債務危機にまで至りかねません。その結果、内戦や難民問題が深刻化する可能性もあるでしょう。また先進国であっても、銀行のドル資金繰りが難しくなると、国際金融危機に一歩近づくかもしれません。

資産価格の下落

超低金利環境で、人々は収益機会を求めて様々な資産に投資しています。典型的には株式市場です。ニューヨーク株式市場の指数(ダウジョーンズ、S&P、ナスダック)はいずれも新型コロナの世界的拡大が明らかになるとともに暴落しましたが、その後ほぼ2倍の水準まで上昇しています。富裕層だけでなく、一般大衆が小口のオンライン投資に参加しており、レバレッジ(資金を借りて投資すること)も一般化していると言われています。一方、住宅価格指数(S&P/ケースシラー)も同期間に十数%の上昇を示し、現在の水準はサブプライムローンによる住宅バブルがピークだった2006年のレベルを3分の1以上上回っています。

金融環境の「正常化」の過程で資産価格が下落する可能性は非常に高いので、その際に投資家が損失を吸収できるか、また住宅ローンや証券投資のための融資が不良債権化して金融機関の健全性を脅かさないか、が重要なポイントです。FRBは、資産価格の下落幅を抑えながら「正常化」を目指すはずですが、それが成功する可能性はまずないと思っておいた方がよさそうです。市場の振り子は過度に振れる(オーバーシュート)のが普通ですので、おそらく大規模な株価と住宅価格の調整が起こるものと思われます。価格下落に直面して再度の金融緩和を余儀なくされる可能性がありますが、それは将来により大きなバブルを先送りするだけです。特にニューヨーク株価の下落は国際的な影響も大きいので、実体経済は動揺すると思いますが、大手金融機関の破綻がなければ、国際金融危機までは至らないのではないかと思います。

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