2022.01.09

「やたらと“エビデンス”を求める人」と「陰謀論にハマる人」、その意外な共通点

じつは両者は似ているのかもしれない…
松村 一志 プロフィール

しかし、このような態度には危険も潜んでいる。たしかに、専門家を信じきってしまうと、専門家の発言が間違いである可能性を甘く見積もってしまう。その意味で、専門家を盲信するのは問題だろう。けれども、一度「エビデンス」がなかったからといって、その専門家(あるいは専門家集団の全体)を全く信じなくなるのは、同じくらい迂闊である。なぜなら、それは、本当は妥当であるはずの発言を「間違い」や「嘘」として棄却してしまう恐れがあるからだ。そうなると、「エビデンス」を重視する態度は「陰謀論」と変わらなくなる。

実際、「ワクチン否定論」のような「科学否定論」では、異端的な論文だけを「証拠」として選び出し、それをもって通説全体を否定することがある(Diethelm and McKee 2009: 3)。この場合、素人目には「エビデンス」があるように見えてしまう。

必要なのは、専門家を信じすぎず、また疑いすぎないことだろう。そのためには、専門家に全てを任せるのでも、全く任せないのでもなく、どこまでを専門家に任せ、どこからは自分で引き受けるのかを考えなければならない。私たちにはいま、そのことが求められている。

 

さらに考えたい方へ

拙著『エビデンスの社会学——証言の消滅と真理の現在』(松村一志 2021)では、「エビデンス」という新語に留まらず、広い意味での「科学的証拠」とは何なのかを、より原理的に考察しています。社会学・科学論をはじめ、人文・社会科学の成果を広く取り入れているので、この問題をさらに深く考えたい方は、ぜひそちらもお読みください。

【参考文献】

・Diethelm, Pascal and Martin McKee, 2009, “Denialism: What Is It and How Should Scientists Respond?,” European Journal of Public Health, 19(1): 2-4.
・Guyatt, Gordon and Drummond Rennie eds., 2002, Users’ Guides to the Medical Literature: Essentials of Evidence-Based Clinical Practice, Chicago: American Medical Association Press. (古川壽亮・山崎力訳,2003,『臨床のためのEBM入門——決定版JAMAユーザーズガイド』医学書院.)
・岩田健太郎,2014,「シリーズ 外科医のための感染症 コラム 『エビデンスないんでしょ』『いや、エビデンスは常にある』」,楽園のこちら側,(2022年1月5日取得,https://georgebest1969.typepad.jp/blog/2014/06/シリーズ-外科医のための感染症-コラム-エビデンスないんでしょいやエビデンスは常にある.html)(再録:2015,「コラム2 『エビデンスないんでしょ』『いや、エビデンスは常にある』」『目からウロコ!外科医のための感染症のみかた、考えかた』中外医学社,103-105.)
・松村一志,2020,「『エビデンス』の奇妙な増殖——〈証拠〉の歴史から見たEBMと社会」『現代思想』48(12): 94-103.
・————,2021,『エビデンスの社会学——証言の消滅と真理の現在』青土社.
・松村むつみ,2021,『「エビデンス」の落とし穴——「健康にいい」情報にはランクがあった!』青春出版社.
・Sackett, David L., Sharon E. Straus, W. Scott Richardson, William Rosenberg and R. Brian Haynes, [1997] 2000, Evidence-Based Medicine: How to Practice and Teach EBM, 2nd ed., Edinburgh: Churchill Livingstone. (2003,『Evidence-based medicine——EBMの実践と教育』エルゼビア・サイエンス.)
・三省堂編修所編,[2014] 2019,『見やすいカタカナ新語辞典 第3版』三省堂.

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