人工知能が人間をダメにする? 人間と人工知能の“脳”を分析

生命知能と人工知能(2)
これからますますAIがわれわれの日常生活に実装される時代、私たち人間がこれからも豊かに幸せに生きるためにはどうすれば良いのか?
最新の知見をもとに、生命知能と人工知能の違い、生命知能を支える意識の働きを解説、生命知能を成長させる脳の使い方、育て方のヒントを提示する“希望の書”『生命知能と人工知能』から注目の章をピックアップ。

人工知能は「自動化」、生命知能は「自律化」

私たちの脳に宿る「知能」の特徴は、現在の人工知能とは本質的に異なると私は考えています。ここでは、これを「生命知能」と呼び、人工知能的な知能とは区別します。

私は工学部に籍を置きながら、脳の研究を続けてきました。とりわけ研究では、「知能」(あるいは「賢さ」とか「知性」とか呼ばれる性質)とは何か、知能はどのようなメカニズムで脳から生じるのかを問い続けてきました。人工知能も生命知能も同じ知能ですが、どこが異なるのでしょうか?

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たどり着いた結論を一言で記すならば、現在の人工知能は「自動化」の技術です。一方で生命知能は「自律化」のためにあります。両者は決して互いに対立する知能ではありません。実際に私たちの知能には、人工知能的な性質と生命知能的な性質が共存しています。しかし現在の人工知能は、生命知能的な性質をほとんど持ち合わせていません。

自動化とは、あらかじめ決められたルールや作法に従い、ものごとを進めることです。工場で働くロボットは、決められた作業を正確に素早く実現する代表的な自動化技術です。将棋や囲碁のような複雑なゲームも、厳格なルールがあるので、人工知能による自動化が可能です。

一方で自律化とは、自分自身でルールを決めて、それに従って物事を進めることです。英語ではオートノミー(autonomy)と言いますが、もともとこれは「自分で自分に自身の法を与える者」という古代ギリシア語に由来する概念です。道徳や哲学でも重要な基礎概念です。

自律化とは、自ら考えや行動を「作り出す」ことと言い換えてもいいと思います。学生たちを指導していると、「もっと考えようよ」と言いたくなります。これは、従来の考え方にとらわれずに、「自分なりの考えを作ってみようよ」という意味です。

「考えようよ」の次は、「手を動かしてみようよ」と言いたくなります。これは、自分の作った考えに従って、「自ら動きを作ってみようよ」という意味です。

大学や大学院の教育カリキュラムでは、最後に卒業論文や学位論文を課します。卒業論文や学位論文の目的は、自らテーマを決めて、自分なりの考えをまとめ、新しい知識を作り出すことです。高等教育の仕上げは、自律化を促すこと、すなわち人工知能が苦手とする能力を養うことなのです。

そのような私の思いとは裏腹に、私たちは生命知能を忘れ、「人工知能化」してしまっているのではないかと思うときがあります。

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