「あまり細かいこと言うなよ」
“ミスター・ジャイアンツ”こと長嶋茂雄と言えばエピソードの宝庫である。後楽園球場で、連れてきた息子の一茂を置き忘れて帰宅したことなどは、まだ序の口。V9メンバーが語る抱腹絶倒の逸話集。
この話を聞いた時には、大袈裟でなく腹を抱えて笑った。その様子が目に見えるようだったからだ。

証言人はV9巨人で長嶋さんと三遊間コンビを組んでいたショートの黒江透修さん。鹿児島高校から杵島炭鉱、日炭高松、立正佼成会を経て、1964年のシーズン途中に巨人に入団した。
身長165センチと小柄ながら、強肩で守備範囲が広く、入団4年目にレギュラーポジションを獲得した。
入団当初は「雲の上の人」だった長嶋さんだが、レギュラーを獲ったあたりから普通に話ができるようになった。黒江さんは長嶋さんを「ミスター」と呼び、長嶋さんは黒江さんを「黒ちゃん」と呼んだ。
ある時、後楽園球場のロッカールームから黒江さんのユニホームが消えた。試合開始まで、もう数分。焦った黒江さん、「誰かオレのユニホーム知らないか?」と声を発した。