「目を介さずに見る」と世界はどう見えるのか? 失明した人が視力を取り戻す最新研究

ブレインテックの可能性とその未来

いま注目を集めているブレインテックは日々新しい研究成果が報告されているが、とくに医療分野での応用が期待されているのが「人工視覚」の分野だ。視力を失った人にとって素晴らしい恩恵があるだけでなく、その技術を進めていくと「目を介さずにものを見る」だけでなく鼻を介さずに「脳で香りを嗅ぐ」「脳で味わう」ということも可能になるというのだが——。

人気脳研究者・池谷裕二氏と紺野大地氏による話題の新刊『脳と人工知能をつないだら、人間の能力はどこまで拡張できるのか』(講談社刊)より、その一部をご紹介しよう。

「見る」とはどういうことか

「見る」ということについて改めて考えてみましょう。 「見る」という言葉を使うとき、私たちは当然のように「目で」見るということを前提にしています。たしかに広辞苑で「見る」を調べると、「目によって認識する」と書かれてあります。

ですが、「見る」ことは目を介さなければできないのでしょうか?

実は脳研究ではすでに、視覚を司る視覚野という脳領域を電気で刺激することで、目を介さずとも光が「見える」ことが知られています。この現象は眼閃(がんせん)と呼ばれており、「目を閉じた状態で光が見える現象」を表します。

【図】眼閃のイメージ眼閃のイメージ

目を閉じているのに光が見えるなんて、不思議だと感じた人もいるかもしれません。ですがそもそも、目に入ってきた光は、まず網膜で電気信号へと変換され、次にその情報が視覚野へと伝達されることで私たちには「見えた」という感覚が生じます。

このことを考えると、目から脳へ情報が伝わるときとまったく同じパターンで視覚野を刺激することができれば、原理的には目を介さずとも外界を「見る」ことができるようになるはずです。

目を介さずにものを「見る」ということ

脳を直接的に刺激することで、目を介さずとも外界を「見る」ことができるようになると、いったいどんなメリットがあるのでしょうか?

真っ先に考えられるのは、交通事故や病気などで失明してしまった人の視力を再び取り戻すことです。日本には現在20万人もの失明患者がいると言われており、全世界ではなんと4000万人もの人々が失明で苦しんでいます。彼らが再び世界を見ることができるようになるとしたら、その意義は非常に大きいと言えるでしょう。

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