スーツケースにびっしりと、着替えやシートマスクを詰め込み「1週間、青森へシンクロ合宿に行ってくるね」と意気揚々と彼女は家を出た。数年前にアキレス腱を断裂してからというもの、彼女が身体を張るであろう仕事へ出向くたびに、おせっかいながら緊張感が走る。

日頃、たった300メートルの移動でさえタクシーに乗りたい彼女。経済が回る一助となることが目的の一つかもしれないが、確実に運動不足である。その上、彼女のアドレナリンは全てのリミッターを無意識に外してしまうほどの爆発力を持っている。だからこそ、僕は怖いのだ。テレビで見る彼女の動きは、いつも俊敏でしなやかで、美しい。彼女がまたもや無理をしてしまうのではないか、と毎度心配になる。

写真提供/つーたん
バービーさんは、11月27日に更新した連載「本音の置き場所」で、妊活をしていることについて執筆してくれた。しかし当然ながら「妊活」とは妊娠しうる女性だけでできるものではない。そこで、2021年4月9日、YouTubeで入籍を発表したバービーさんのパートナーのつーたんさんにアンサーエッセイを寄せていただいた。つーたんさんは32歳の会社員だ。夫として、男性として、妊活にどう向き合っているのか。つーたんさんの率直な思いをお聞かせいただいた。

結婚してもあまり変わらなかった日常

2021年4月9日、僕たちは婚姻届を提出した。社会的にも「夫婦」になったわけである。先が透けて見えるほど薄い、独特なフォーマットの”紙”に違和感は抱きつつも、社会的影響力は噂通りであった。紙を1枚出すだけで、友人や親族からこんなにも祝福してもらえるとは思ってもみなかった。ペーパーレス化が進む現代とは逆行しているが。あの紙はこれから先、どのように保管され続けるのか、気になるところだ。

子供の頃は漠然と、結婚したら何かが劇的に変わる気がしていた。見える世界が変わる。人間としてレベルアップする。そして結婚は、して当たり前。結婚しないと「負け組」に勝手にセグメントされてしまう。そんな危機感もどこかに抱えていたように思う。

婚姻届を提出し、数ヵ月。特に何も変わっていない。目に見える変化といえば、左手の薬指に指輪をしていることと、選挙の投票券が同じ封筒で2人分届くようになったことくらいである。特にレベルアップなどしないし、当たり前だが勝ち負けなどない。大人にはもっとすべきことがたくさんあると、幼い頃の僕に伝えたい。

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半年前から基礎体温を計りはじめた

半年ほど前から毎朝7:05に、枕元で基礎体温計のアラームが鳴る。まだ目を瞑っている彼女の唇の隙間にそっと体温計を差し込むことから僕の毎日が始まる。目覚ましの役割も兼ねる、なんとも利便性の高い体温計である。
彼女がシンクロ合宿へ出かけた翌朝、その目覚ましが鳴ることはなかった。共に青森へ向かったようで、安心した。
僕たちは、赤ちゃんを迎え入れる準備「妊活」を始めた。何度も話し合いを重ねた上で、2人での生活はこの上なく幸せで愛おしい。それでも子供がいる家族のカタチにも幸せを感じる、という共通認識を見出したからだ。2人とも我が強く、欲張りなのである。

写真提供/つーたん

今のところ妊活を始めて、僕たちの生活に大きな変化はない。生理予定日の情報が通知されるアプリを互いのスマホにインストールしたり、サンリオのキャラクターがふんだんにあしらわれた温活グッズが増えたり、女性ホルモンを整えるハーブティーを煮出す事が僕の日課になった程度だ。
彼女は、相変わらず幅広い仕事に日々忙しい生活を送っている。僕も、変わらず会社員としてカレンダーに則った日々を過ごしている。「妊活」とネットで調べた際によく出てくる、「女性は仕事をセーブして!リラックスを!」とは相反していることには、もちろん気が付いている。

しかし、僕たちはそれで良いと思っている。あえて、このスタンスで妊活に臨みたい。妊活に臨むスタンスに正解など存在しないように思う。僕たち夫婦に限っては、根本を全て覆してまで取り組む妊活は、本来の目的を見失ってしまう気さえするのだ。