2021.12.30

養父からひどい扱いを受けてきた39歳の妻、年上の夫に「無償の愛」を求めてしまった理由

佐藤 千恵 プロフィール

子育ては時に、自分の子ども時代との再会でもあると感じます。七瀬さんは、本来子どもとして世話される側だったはずの子ども時代に養父のケアをし、母親の顔色を見て家庭のバランスを取る、まるで大人の責任を果たしてきました。一方通行に愛情を注いでもらうことが人生でほとんど唯一許される貴重な子ども時代に「子どもだから」という甘えが叶わなかったのです。

小さい頃から子どもとして扱われず大人の役をさせられると、大人になっても対人関係の遠近感が分からなくて、他者に対して非常に引っ込み思案で遠慮がちかと思えば、ひとたび心を許すと他者の境界線を超えて依存的になってしまう、そんなことがあります。

七瀬さんはある面で巧さんに対しいわゆる「無償の愛」のような、言うなれば子どもとして一方向に親から注いでもらう愛情を夫との関係に求めている節がありました。

〔PHOTO〕iStock
 

しかし夫婦の愛は(もちろん夫婦の形や愛の形は様々ですが)、基本的に支え合いや愛情の交換による相互的なものです。それは、少なくとも一方的に愛情を求め受け入れられる「幼い子どもと親との間の愛」とは異なります。それに、七瀬さんが巧さんに求めたものがいわゆる「親なるもの」である限りは、例え巧さんがどんなに頑張って応えようとしても残念ながら心は埋まらないでしょう。

なぜなら、巧さんは七瀬さんの親ではなくあくまで夫。夫である巧さんが与えられるのは「夫としての」愛や支えです。ここを見誤ると、夫婦関係がギクシャクしてしまうことがあります。

カウンセリングを続けて行くなかで、ある時期から七瀬さんはカウンセラーである私に苛立ちをみせ、「もっと私を分かって」という欲求を表現するようになりました。これは少しずつですがご自分が何に苛立ち、何を求めているのかを自己理解し、カウンセラーとの間で「本来は親との間で片付けておくべきだった課題」に取り組み始めているあらわれです。少々しんどい時期ですが必要なことです。

少しずつゆっくりと、七瀬さんは子ども時代の自分を満たす取り組みを、他者ではなくご自分の力で行おうとしています。夫である巧さんやカウンセラーのサポートを受けながら。

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